温室・屋内の植物栽培分野では、最適な栽培環境の管理に様々なテクノロジーが役立っています。なかでも、最近よく目にする「スマート農業」や「スマート園芸」は、極めて精度の高いデータを使用して、ほとんど均一の農作物を収穫できるようにするものです。植物は環境から大きな影響を受けるため、栽培環境を均一に保つことが重要になります。栽培システムにとあるテクノロジーを組み込めば、高精度で均一な栽培環境を作り上げることができます。その実現には、マイクロコントローラや各種半導体の大手メーカーMicrochip Technologyなどが提供する、センサ、IoT(モノのインターネット)、マイクロコントローラ(MCU)、LED照明などのテクノロジーを連動させます。以下、こうしたテクノロジーがそれぞれどのような機能を持ち、管理環境下で他のテクノロジーとどのように作用するのかについて説明していきます。
センサ
センサは、環境の変化を検出し、MCUのようなコンピュータデバイスにそのデータを送ります。センサは、光質・光量、温度、相対湿度、二酸化炭素濃度、気流、土壌水分量などのさまざまな環境要因を検出しますが、これらはすべてスマート栽培には欠かせない要素となります。例えば、光量の把握が重要であることは、光が植物栽培で最も重要な制限要因の1つであることからもわかることでしょう。センサは、こうした環境要因の数値化を可能にし、それにより適切な調節を行うことで最適な植物栽培を可能にします。ただし、センサは決してそれ自身で機能するのではありません。データの出力には、IoTデバイス、マイクロコントローラ、その他のプロセッサなど、別のタイプの電子デバイスが必要になります。
IoT
IoT(モノのインターネット)は、身の回りの機器をインターネットにつなぎます。日常生活で使用されるIoT技術の一例として、「Ring」や「Nest」などのスマートホームデバイスがあります。IoTが世界に初めて登場したのは、1982年のコカ・コーラの自動販売機でした。在庫数と飲料品の温度を伝えてくれる程度のものでしたが、当時としては画期的な技術でした。以来、イノベーターたちによってIoT技術は大きな進歩を遂げてきました。
IoTは、スマート農業システムにおいて極めて重要な役割を果たしています。このシステムは、センサからデータを取得し、センサが収集したあらゆる情報をコンピュータまたは携帯機器を介して栽培者に伝えます。これにより、栽培者は詳細な情報に基づいて的確な判断ができるようになり、無線によりリモートから効率性の向上と収穫量の最適化が可能になります。
MCU
MCUは、通常のコンピュータと同様の構成をもつ非常に小さなコンピュータですが、その小型性が大きな強みと言えます。MCUは、通常1つのタスク専用のデバイスなので、タスクに集中できます。MCUは、テレビ、ラジオ、冷蔵庫など、私たちの身の回りのさまざまな機器に使われています。制御環境下での栽培では、単独または複数のMCUが、中枢として機能し、LED植物育成ライト、暖房、冷房、加湿器などの各種設備の電源のオン、オフを行い、センサ出力を統合することにより理想的な設定点を維持します。例えば、曇りの日は、低光量により生育が制限されるため、補助光が作動しますが、晴天の日は、自然光で十分なので補助光はオフになり、電力を節約します。これにより栽培者は、勘による作業から解放されて、その他の作業に集中することが可能になり、しかも自動的に均一な栽培環境も維持できます。
LED
LEDの園芸分野への適用は、栽培システムの精度と効率性を大きく向上しました。LEDには、従来の白熱灯に比べて数多くの利点があり、それには、低消費電力、長寿命化、熱負荷の低減、大幅な小型化などが挙げられます。小型化と熱負荷の低減により、間隔を詰めた栽培が可能になり、これにより垂直農場の栽培密度は最大化され、トマトのようなつる性の作物も葉の間で栽培が可能になります。また、LEDは調光可能で、制御を強化できるオプションがあり、IoTやMCUに設定できます。これまでの植物研究から、光合成の量子収率は、赤色と青色の波長だけで栽培した場合が最も高く、植物は赤色と青色を最もよく吸収することがわかっています。その他の色の波長も吸収するとはいえ、量子収率が最も高い波長にエネルギーを使用することが、LEDの効率性を高め、最も効率的です。またLEDは、以前は不可能だった光比率の可変性によって、植物生育に関する数多くの優れた研究や発見に貢献しています。例えば、光の点滅やモバイルLEDバーの活用は、長い日照時間を必要とする長日植物の栽培を効率化し、エネルギーと備品コストの低減を可能にします。さらに研究が必要ではありますが、植物には各品種ごとに生産量を最大化できる個別の「光レシピ」があることがわかっており、LEDの可変性こそ、これを実現できるはずです。各農作物ごとに必要な栄養素があるように、最適な光スペクトルがあるのです。
まとめ
センサ、MCU、IoTデバイス、LEDを栽培システムに統合することにより、高精度な環境制御を実現し、植物栽培の効率と生産量の最大化が可能になります。こうしたテクノロジーを組み合わせることで、植物の環境条件を検知し、その情報を接続機器に送り、さらには植物生育に最適な栽培条件(光量、波長など)を調整することによって、均一な栽培環境を実現することができます。
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筆者
ブランドン・ヒューバー:現在、米国ノースカロライナ州立大学園芸学博士(PhD)課程に在学中。専門は制御環境園芸学。密閉栽培環境における生産費削減の手段として二酸化炭素補充の効果について研究中。研究・実験において、環境ノイズを最小限に低減して、環境要因の精密な制御・記録を行う上で、多数のセンサとデータロガーを使用している。この研究により、生育品質を維持しながら、生産時間と光の要求量の低減が可能であることを発見。なお、修士課程(M.S.)の専門は、植物育種学。
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