2021年8月18日水曜日

5Gで始まるデータセンタープラットフォームの進化

 

執筆:Alex Pluemer(マウザー・エレクトロニクス)

協賛:Amphenol ICCIntel

 

シームレスな5G接続に向けて

5Gによってモバイル通信は新たな時代に突入しましたが、5Gに期待できるのは「高速ダウンロード」や「超低遅延」だけではありません。高帯域幅とカバレッジの拡大により、5Gはそれまでの携帯電話の枠を超えて、ノートパソコンやモバイルIoT機器、自動車、さらには大規模な産業用設備にいたるまで、モバイル通信の新たなユースケースを拡大することが期待されています。業界の予測によると、今後4Gからの乗り換えがますます進み、2020年代半ばまでには5Gネットワーク加入者数は10億人を超えると言われています。

しかし、5Gへ移行するには、新しい携帯通信インフラへの大規模な投資が不可欠です。5Gアーキテクチャーは、これまでのものとは大幅に異なり、 その変化をもたらすものこそ、4Gから進化した5Gの重要な特性であると言えます。ここではその重要な特性が5Gシステム向けデータプラットフォームアーキテクチャーにどのように影響しているのかに目を向け、さまざまなレベルのデータプラットフォームについて見ていきながら、代表的な実装オプションを紹介します。また、ミッドレンジのデータプラットフォームを例に取り上げ、設計上の重要な選択とトレードオフについて明らかにしていきたいと思います。

 

5Gの特性とネットワークアーキテクチャー

ローバンド(低周波数帯)5G基地局は、4Gと同等の周波数帯(600MHz850MHz)を利用し、同等の通信範囲とダウンロード速度(30Mbit/s250Mbit/s)を実現しています。そのため、ローバンド5Gは、すでに世界中の多くの地域で徐々に廃止されつつあります。それに対して、中周波数帯のミッドバンド5Gは、2.5GHz3.7GHzのマイクロ波を使用し、カバレッジを数マイル拡大させながら、ダウンロード速度100Mbit/s900Mbit/sと大幅に向上させています。ミッドバンド5G基地局は、大都市など人口の多い地域ではすでに標準となっており、これが世界標準となるのはもはや時間の問題かもしれません。

一方、高周波数帯のハイバンド5Gは、現在25GHz39GHzの周波数帯を使用し、ケーブルインターネットサービスとほぼ同じ約1Gbpsのダウンロード速度を実現しています。ただし、ハイバンド5Gには限界があります。25GHz39GHz帯はミリ波帯の低域にあたりますが、ミリ波はマイクロ波よりも範囲が狭いため、ミッドバンド5Gと同じエリアをカバーするには、より多くのセルが必要になります。また壁や家電などの物理的な障害物があると、ハイバンド5Gの接続が制限されることがあります。またミリ波は固体を透過しません。さらにハイバンド 5Gは、低周波技術に比べて コストが高く、 そのため当面はコンサート会場やスポーツアリーナなどの比較的多くの人が集まる施設に限定されるかもしれません。


ハイバンド5Gは壁や障害物によって接続が制限されるため、利用できるエリアはスポーツアリーナなどに限られるかもしれません。(画像:Alida Latham/Danita Delimont - stock.adobe.com

 

5Gデータプラットフォームのピラミッド

実装に向けて5Gの階層を決定する際には、カバレッジ範囲、ダウンロード速度、コスト効率などの要因を考慮する必要があります。5G分散型データプラットフォームでは、コスト、電力、ネットワーク性能、動作範囲、ユーザー機能などを最適化できるよう、データ処理、ストレージ、通信をさまざまなレベルのアーキテクチャー階層に配置しています。ネットワークエッジに最も近いのは、ビルや施設内の数十メートルほどの短い距離をカバーする小型プラットフォームです。一般的な用途には、ビルオートメーション、セキュリティ、工場現場モジュールの監視・制御などがあります。エッジデバイスの上のレベルには、アグリゲーションプラットフォームがあり、すべてのエッジデバイスをつなぎ合わせて、約100メートルの範囲におよぶデータトラフィックを統合し、最適化します。このデバイスは、ビルや小規模キャンパスなどに設置され、通信の分析、フィルタリング、統合、優先順位付けを行っており、それにはよく人工知能(AI)が活用されています。

 


中間プラットフォームは、大規模なコアデータセンターのすぐ下のレベルに位置し、より迅速な応答を実現します。応答はコアによって、アルゴリズムに基づき選択され、定期的に更新されます。この中間プラットフォームが、エッジに近いプラットフォームに求められるリアルタイム制御を提供しています。このプラットフォームによるデータ分析やトラッキングにより、データ価値が生まれ、プラットフォームプロバイダーは新たな収益源を得ることができます。また、ユーザー側も、予知保全、材料のトラッキングやルーティング、システム管理、データトラフィックの負荷分散など、さまざまな運用にかかるコストの削減(利用料、または削減分の一部のみ負担など)が可能になります。

ビッグデータの運用は、コアデータセンタープラットフォームで行われます。この大規模なデータの処理・蓄積施設には、何年にもおよぶ運用履歴や複雑な機械学習アルゴリズムが蓄積されており、最適化フィルタとプロセスによって中間プラットフォームをプログラムすることにより、迅速な応答を実現し、ユーザーに付加価値を提供します。

 

データセンタープラットフォームの種類と特性

5Gの各階層について、設計にはさまざまな要件とトレードオフがあります。

  • 小型プラットフォームは、システムの中でもコスト、設置面積、電力において最も制約されています。各アグリゲーションプラットフォームごとに数個が必要になるため、設置が容易であることと、中程度の寿命が求められます。ここでは柔軟性や処理能力を多少犠牲にしても、低コスト、低消費電力、省スペースを実現できるMCUベースの実装が可能です。
  • アグリゲーションプラットフォームには、高い柔軟性と処理能力、中規模ストレージ、セキュリティが必須です。FPGA(フィールド・ プログラマブル・ゲートアレイ)ベースの実装は、新しいプロトコル、新しいAIアルゴリズム、ユーザーへの新しい付加価値など、必要に応じて基盤となるハードウェアを再プログラムできるため、最大限の柔軟性と処理能力が期待できます。FPGAは拡張性が高いため、プロバイダーは価格や製品価値に応じて、柔軟性と処理能力の異なる多種多様な製品層を開発することができます。
  • 中間プラットフォームには、最高レベルの生の処理能力、セキュリティ、柔軟性が求められます。コスト、消費電力、設置面積は犠牲にしても仕方がないでしょう。このレベルでは、メモリ保護ユニット(一般的演算の生の処理能力)とFPGA(柔軟性と適応性)のハイブリッドな組み合わせが実装方法として最適ですFPGAは、動画処理、暗号化、復号化、検索、フィルタリングなど、重要な機能へのニーズが高まる中、必要に応じてリアルタイムで再プログラミングすることも可能です。また、AIアルゴリズムは、稼働率、通行パターン、天候などの指標からわかるデータ情報を分析することにより、ニーズを予測することもできます。


FPGAを使ったアグリゲーションプラットフォーム

ここでミッドレンジのアグリゲーションプラットフォームを取り上げ、重要な機能がデバイス内にどのように実装されているのか見てみましょう。マイクロコントローラを内蔵したFPGAを採用することにより、デバイスはマイクロコントローラから動作を開始し、起動や更新を安全に行うことができます。堅牢で保護された暗号化、復号化、セキュリティキー保管操作などの機能が、ハッカーやウイルスによるシステムの乗っ取りを防止します。マイクロコントローラは、通信、パケット処理、動画処理、圧縮、ストレージ効率化などの標準的な操作に対応します。オンチップFPGAハードウェアは、高い処理能力を要する、特殊な操作に使用することにより、迅速な処理が求められる一般的な機能にMCUを振り分けることができます。

画像:FlashMovie - shutterstock.com

FPGAは、デジタルフィルタリング、画像処理、画像認識などの特殊な処理に使用、必要に応じてAI・機械学習アルゴリズムを併用すれば、ハードウェアを予測し、プログラムすることができます。将来的に、中間プラットフォームやコアプラットフォームから新しいアルゴリズムを発見し、作成し、ダウンロードすれば、さらに性能を最適化させることができ、プラットフォームプロバイダーには新たな収益をもたらし、ユーザーはコストの削減が可能になるでしょう。

5Gは、クラウドから、コア、エッジまでを統合します。しかし、それぞれが適切な種類のインフラで動作し、またそれにアクセスできることが重要です。5Gではエッジコンピューティングが重視されていますが、コアは常に必要です。また、5G通信の急速な普及と、5G対応端末数の増加に伴い、端末のための小・中規模の分散型データセンタープラットフォームの必要が高まっています。コアからエッジにいたるまでのコンピューティングこそ、5G対応の世界の特徴であると言えるでしょう。サーモスタットや冷蔵庫から飛行機、電車、自動車いたるまで、すべてが携帯電話と同じネットワークでつながる世界。私たちは今、そんな新しい世界へと足を踏み出しているのです。 

 

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次世代パワー半導体技術:インフィニオンCoolSiC™とは?

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(画像:インフィニオン テクノロジーズ)

 

「戦いは塹壕で決まる」という言葉をご存知ですか。その意味は、現場の最前線で汗まみれになって働く人たちが最終的に勝敗を決するという意味です。実は、電源システム設計の現場でも、現在エンジニアたちによって「塹壕(トレンチ)」での戦いが繰り広げられています。ここでは、その戦いを勝ち取るためには何が必要なのか考えてみたいと思います。

よりエネルギー効率の高い世界への重要な鍵となるのが、ワイドバンドギャップ(WBG)半導体です。このパワー半導体により、電力効率の向上、システムの小型化、軽量化、低コスト化が可能になります。

インフィニオン テクノロジーズは、シリコン(SJMOSFETIGBTなど)、炭化ケイ素(ショットキーダイオード、MOSFETなど)、窒化ガリウムを基盤とする(e-mode HEMT、統合電力段)デバイスなど、幅広い製品・技術を提供しています。炭化ケイ素SiC)技術の開発において20年以上の歴史を持つ大手パワー半導体メーカーとして、よりスマートで効率的な発電、送電、消費電力のニーズに応えてきました。同社の専門家は、システムの複雑さを軽減するのに何が必要か熟知しており、中・大電力システムのシステムコストとサイズ削減に導きます。

 

トレンチ型デバイス CoolSiC

インフィニオンが目指しているのは、炭化ケイ素SiC)のMOSFET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)による低オン抵抗(RDS(ON))と、安全な酸化膜電界強度条件で動作できるゲート駆動モードデバイスを組み合わせることです。同社では、欠陥密度の高い従来のプレーナ型DMOS(二重拡散金属酸化物半導体)デバイスから、より良好な表面配向を持つトレンチ型デバイスへと注力を移行しています。トレンチ型デバイスは低い酸化膜で低いチャンネル抵抗を実現します。これらの境界条件が、産業機器や自動車アプリケーションで期待されるFIT値(故障率)を保証する上で、シリコンパワー半導体の世界で確立された品質保証手法へと移行する基準となります。こうした背景から誕生したのが、CoolSiC製品です。

 

SiCデバイスは、ブロッキングモード時にSiデバイスよりもはるかに高いドレイン電界(kVではなくMV)で動作します。そのため、オン状態やオフ状態の酸化膜での電界が高く、摩耗を早める可能性があります。そこで、オフ状態ストレスには、深いP型領域による保護が適用されます。オン状態ストレスには、薄い酸化膜に残された外因性の酸化膜欠陥を選別する限界を回避するために、厚い酸化膜が使用されます。CoolSiC製品は、比類のない信頼性、品質、多様な製品ラインアップ、システムの利点を提供します。

 

CoolSiC トレンチMOSFETの特徴と利点は次のとおりです。

  • 低いチャンネル抵抗
  • 安全なゲート酸化膜電界で動作
  • 寄生ターンオンに対する堅牢性
  • ハードコミュテーションを可能にし、サージ電流の堅牢性を向上
  • JFET領域が短絡電流を制限
  • RONにより並列駆動が容易
  • Rgによる制御性、温度非依存のスイッチング特性を実現

 

CoolSiC MOSFETとショットキーダイオード

インフィニオンのCoolSiC MOSFET のラインアップは、650V1200V1700Vの電圧クラスから構成され、ハードおよび共振スイッチングトポロジーに理想的です。(図1)。CoolSiC MOSFETは、最先端トレンチ半導体プロセスに基づいて構築されており、アプリケーションにおける低損失、ならびに高い動作信頼性を実現するよう最適化されています。TOパッケージおよびSMDパッケージのラインアップがあり、オン抵抗定格は27mΩ1000mΩです。CoolSiCトレンチ技術は、柔軟なパラメータ設定が可能で、各製品ラインアップにおけるアプリケーション固有の機能(例えば、ゲートソース電圧、アバランシェ耐量、短絡耐量、ハードコミュテーション用の定格を備えた内蔵ボディダイオード)の実装に使用されます。

 


1TO-247パッケージの 650V CoolSiC™ MOSFETD²PAK-7L パッケージの1200V CoolSiC™ MOSFET(画像:インフィニオン テクノロジーズ)

 

ディスクリートパッケージのCoolSiC MOSFETは、力率改善(PFC)回路、双方向トポロジ、DC/DCコンバータ、DC/ACインバータなど、ハードウェアトポロジと共振スイッチングトポロジの両方に最適です。不要な寄生ターンオン効果に対する優れた耐性により、ブリッジトポロジーのターンオフ電圧が0Vであっても、低ダイナミック損失のベンチマークを実現します。TO(トランジスタ・アウトライン)パッケージおよびSMD(表面実装)パッケージ製品には、スイッチング性能最適化用のケルビンソースピンも追加できます。

 

インフィニオンのCoolSiCショットキーダイオードは、比較的高いオン抵抗とリーク電流を提供します(2)。SiC材料では、ショットキダイオードは非常に高い降伏電圧に対応します。同社のSiC製品ポートフォリオは、600Vおよび650V1200Vのショットキーダイオードをカバーしています。高速のシリコンベースのスイッチとCoolSiC™ ショットキーダイオードの組み合わせは、ハイブリッドソリューションと呼ばれています。

 

2:車載用CoolSiCショットキーダイオード (画像:インフィニオン テクノロジーズ)

 

CoolSiC MOSFETモジュール

CoolSiC MOSFETを搭載したパワーモジュールは、インバータ設計において、これまでにない電力効率と電力密度レベルを実現する新たな可能性をもたらします(3)。また、炭化ケイ素SiC)は、スイッチあたりオン抵抗(RDS(ON))が45mΩから2mΩまでのさまざまなトポロジーを可能にし、アプリケーションのニーズに応えます。SiC MOSFETモジュールは、3レベルANPC、デュアル、4パック、6パック、ブースターなどのさまざまな構成で利用可能で、最先端のトレンチ構造による優れたゲート酸化膜の信頼性、最高クラスのスイッチング性能と低伝導損失を実現しています。

 


3 CoolSiC™ MOSFET Easy1BおよびEasy2B  (画像:インフィニオン テクノロジーズ)

 

まとめ

SiC MOSFETには、トレンチ型MOSとプレーナ型DMOS2種類の異なる構造があります。インフィニオンでは、あらゆるアプリケーションで使用しやすく、電力損失の低減と高信頼性を実現できる先進のトレンチ技術を採用しています。同社のCoolSiCは、その卓越した性能により、性能と品質のバランスのベンチマークとなります。インフィニオンのゲート酸化膜スクリーニングプロセスは、製品の信頼性を確保します。

 

インフィニオンの炭化ケイ素CoolSiC MOSFETおよびショットキーダイオードは、よりスマートで効率的な電力の生成・伝達・消費を可能にします。CoolSiC製品ポートフォリオは、システムの小型化、中・大電力システムのコスト削減のニーズに対応し、しかも最高の品質基準を遵守し、システム寿命の長期化、信頼性の確保を実現します。CoolSiC™を採用することにより、システム運用コストを削減しながら、最も厳しい電力効率目標が達成できます。つまり、インフィニオンのCoolSiCソリューションを活用して、「トレンチ」を制することが、電源システム設計における勝利の鍵となるはずです。

 

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著者

 

ポール・ゴラータ

2011年マウザー・エレクトロニクスに入社。シニアテクノロジースペシャリストとして、戦略的リーダーシップ、計画の実行、全体的な製品ライン、高度技術製品に関するマーケティング指導などを通じてマウザーの実績に貢献している。また設計技師に電気工学の最新情報やトレンドを伝えるため、ユニークかつ貴重な技術コンテンツを配信し、マウザー・エレクトロニクスの理想的な企業としての地位強化にも貢献している。

マウザー・エレクトロニクス以前は、Hughes Aircraft CompanyMelles GriotPiper JaffrayBalzers OpticsJDSU、及びArrow Electronicsに勤務。製造、マーケティング、及び営業関連に従事した。DeVry Institute of Technology(イリノイ州シカゴ)にてBSEET(電気工学技術の理学士号)、Pepperdine University(カリフォルニア州マリブ)にてMBA(経営学修士号)、Southwestern Baptist Theological Seminary(テキサス州フォートワース)にてMDiv w/BL(神学及び聖書文学修士号)及びPhD(博士号)を取得。

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