2020年4月17日金曜日

テクノロジーで理想の栽培環境を作る 
― これぞ未来の植物栽培



温室・屋内の植物栽培分野では、最適な栽培環境の管理に様々なテクノロジーが役立っています。なかでも、最近よく目にする「スマート農業」や「スマート園芸」は、極めて精度の高いデータを使用して、ほとんど均一の農作物を収穫できるようにするものです。植物は環境から大きな影響を受けるため、栽培環境を均一に保つことが重要になります。栽培システムにとあるテクノロジーを組み込めば、高精度で均一な栽培環境を作り上げることができます。その実現には、マイクロコントローラや各種半導体の大手メーカーMicrochip Technologyなどが提供する、センサ、IoT(モノのインターネット)、マイクロコントローラ(MCU)、LED照明などのテクノロジーを連動させます。以下、こうしたテクノロジーがそれぞれどのような機能を持ち、管理環境下で他のテクノロジーとどのように作用するのかについて説明していきます。 



センサ


センサは、環境の変化を検出し、MCUのようなコンピュータデバイスにそのデータを送ります。センサは、光質・光量、温度、相対湿度、二酸化炭素濃度、気流、土壌水分量などのさまざまな環境要因を検出しますが、これらはすべてスマート栽培には欠かせない要素となります。例えば、光量の把握が重要であることは、光が植物栽培で最も重要な制限要因の1つであることからもわかることでしょう。センサは、こうした環境要因の数値化を可能にし、それにより適切な調節を行うことで最適な植物栽培を可能にします。ただし、センサは決してそれ自身で機能するのではありません。データの出力には、IoTデバイス、マイクロコントローラ、その他のプロセッサなど、別のタイプの電子デバイスが必要になります。

IoT

IoT(モノのインターネット)は、身の回りの機器をインターネットにつなぎます。日常生活で使用されるIoT技術の一例として、「Ring」や「Nest」などのスマートホームデバイスがあります。IoTが世界に初めて登場したのは、1982年のコカ・コーラの自動販売機でした。在庫数と飲料品の温度を伝えてくれる程度のものでしたが、当時としては画期的な技術でした。以来、イノベーターたちによってIoT技術は大きな進歩を遂げてきました。
IoTは、スマート農業システムにおいて極めて重要な役割を果たしています。このシステムは、センサからデータを取得し、センサが収集したあらゆる情報をコンピュータまたは携帯機器を介して栽培者に伝えます。これにより、栽培者は詳細な情報に基づいて的確な判断ができるようになり、無線によりリモートから効率性の向上と収穫量の最適化が可能になります。

MCU

MCUは、通常のコンピュータと同様の構成をもつ非常に小さなコンピュータですが、その小型性が大きな強みと言えます。MCUは、通常1つのタスク専用のデバイスなので、タスクに集中できます。MCUは、テレビ、ラジオ、冷蔵庫など、私たちの身の回りのさまざまな機器に使われています。制御環境下での栽培では、単独または複数のMCUが、中枢として機能し、LED植物育成ライト、暖房、冷房、加湿器などの各種設備の電源のオン、オフを行い、センサ出力を統合することにより理想的な設定点を維持します。例えば、曇りの日は、低光量により生育が制限されるため、補助光が作動しますが、晴天の日は、自然光で十分なので補助光はオフになり、電力を節約します。これにより栽培者は、勘による作業から解放されて、その他の作業に集中することが可能になり、しかも自動的に均一な栽培環境も維持できます。

LED

LEDの園芸分野への適用は、栽培システムの精度と効率性を大きく向上しました。LEDには、従来の白熱灯に比べて数多くの利点があり、それには、低消費電力、長寿命化、熱負荷の低減、大幅な小型化などが挙げられます。小型化と熱負荷の低減により、間隔を詰めた栽培が可能になり、これにより垂直農場の栽培密度は最大化され、トマトのようなつる性の作物も葉の間で栽培が可能になります。また、LEDは調光可能で、制御を強化できるオプションがあり、IoTMCUに設定できます。これまでの植物研究から、光合成の量子収率は、赤色と青色の波長だけで栽培した場合が最も高く、植物は赤色と青色を最もよく吸収することがわかっています。その他の色の波長も吸収するとはいえ、量子収率が最も高い波長にエネルギーを使用することが、LEDの効率性を高め、最も効率的です。またLEDは、以前は不可能だった比率の可変性によって、植物生育に関する数多くの優れた研究や発見に貢献しています。例えば、光の点滅やモバイルLEDバーの活用は、長い日照時間を必要とする長日植物の栽培を効率化し、エネルギーと備品コストの低減を可能にします。さらに研究が必要ではありますが、植物には各品種ごとに生産量を最大化できる個別の「光レシピ」があることがわかっており、LEDの可変性こそ、これを実現できるはずです。各農作物ごとに必要な栄養素があるように、最適な光スペクトルがあるのです。

まとめ

センサ、MCUIoTデバイス、LEDを栽培システムに統合することにより、高精度な環境制御を実現し、植物栽培の効率と生産量の最大化が可能になります。こうしたテクノロジーを組み合わせることで、植物の環境条件を検知し、その情報を接続機器に送り、さらには植物生育に最適な栽培条件(光量、波長など)を調整することによって、均一な栽培環境を実現することができます。


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筆者 

ブランドン・ヒューバー:現在、米国ノースカロライナ州立大学園芸学博士(PhD)課程に在学中。専門は制御環境園芸学。密閉栽培環境における生産費削減の手段として二酸化炭素補充の効果について研究中。研究・実験において、環境ノイズを最小限に低減して、環境要因の精密な制御・記録を行う上で、多数のセンサとデータロガーを使用している。この研究により、生育品質を維持しながら、生産時間と光の要求量の低減が可能であることを発見。なお、修士課程(M.S.)の専門は、植物育種学。

2020年4月13日月曜日

新たな方向を切り拓くBluetooth®




これまでのBluetooth®無線技術の着実な進歩には、目を見張るものがあります。この技術、当初は、ケーブルなしでハンドセット間をつなぐ通信手段として開発されたのですが、特に2010年、Bluetooth 4.0で追加された省電力のBluetooth Low EnergyBLE)バージョンの発表以降、飛躍的な普及を遂げてきました。BLEの登場のおかげで、その活用の領域は身近なバッテリ駆動デバイスにまで拡大し、それまで通信とは無縁だった無数の「モノ」にも無線接続への道が一挙に切り開かれたのです。
当初、BLEの普及は、スマートフォンから直接操作できる、ウェアラブルや玩具、自転車照明、コーヒーメーカーといった、いわゆる「アプセサリー」市場によって主に牽引されていました。ところが、偶然にもその技術的特性が、IoT(モノのインターネット)の土台となる無線センサのニーズにちょうど合致していたのです。近年では、通信速度と到達距離の向上、共存性の改善などが行われたBluetooth® 5が発表され、これによりBluetoothは、「スマートな未来」の鍵となるテクノロジーとしてその地位を不動のものにしました。
Bluetooth 4.05.0は、マーケティングに力を入れ、鳴り物入りで導入されましたが、それだけに、標準版に追加されたこの仕様により、飛躍的なまでの技術的強化がもたらされました。それに対して、最新版のBluetooth 5.1は、マーケティング的にも盛り上がらず、さほどの脚光は浴びませんでしたが、実は、これまでどの無線技術も対応できなかった課題へのソリューションとして期待できるのです。

位置の検出

多くの誘導/追跡用アプリケーションは、Galileo、グローバル・ポジショニング・システム(GPS)、全地球的航法衛星システム(GLONASS)といった、グローバル・ナビゲーション・サテライト・サービスによって支えられています。ただし、システムは衛星への「見通し線(LOS)」がなければつながりません。エンジニアは、Wi-Fiルータの既知の位置を基準に位置を特定するなど代替的ソリューションで対応していますが、そのようなソリューションの精度は、せいぜい10メートル程度が限界です。
それに対し、Bluetooth は、受信信号強度インジケータ(RSSI)技法を採用して、Bluetooth送受信機(スマートフォンなどに内蔵)の位置を推定しています。

その名が示す通り、この技術は、Bluetoothの信号の強さから、送受信機から既知の固定点(例、ビーコンなど)までの距離を推定します。ただし、一般にこうしたシステムは、対象となる送受信機の正確な位置の特定はできず、そのビーコン(床のような水平面に置かれたBluetooth送受信機向け)を中心とする円周上のどこかにあることを推定できるだけです。壁などの障害物がある場合、信号強度の減衰(通常、不明)が生じ、精度はさらに損なわれます。

Wi-FiBluetooth技術による近接システムは、おおよその位置から客におすすめ情報などを配信する、店舗アプリなどに活用されていますが、いずれの技術も精度に欠けるため、屋内ナビゲーションや資産追跡(アセットトラッキング)などの作業に対応できるレベルには達していません。

信号の角度による測位

Bluetoothチップメーカー、ノルディック・セミコンダクター社でシニア・プロダクト・マーケティング・マネージャを務めるジョン・レナード氏によれば、Bluetooth 5.1によって「方向探知」技術が導入され、それにより屋内ナビゲーションおよび資産追跡向けプロトコルの有用性は劇的に向上します。Bluetooth 5.1は、「三次元空間にあるモノの正確な測位を可能にし、GPSが屋外測位にもたらしたのと同じ成果を屋内環境にももたらすだろう」とレナード氏は語っています。

Bluetooth 5.1の方向探知機能の強化点は、信号が発信される見かけの方向とRSSIによる測位を組み合わせることで実現します。これにより、ただ送受信機が円周上のどこかにあると推定するのではなく、その位置を空間的に約1メートルの精度で特定することが可能になります。 この新しい技術の詳細は複雑なため、説明すればもっと長くなるのですが、一言で言うと、方向測位には2つの方法があります。

  • 受信信号の到達角度(AoAAngle of Arrival
  • 送信信号の発信角度(AoDAngle of Departure

具体的には、AoAは、特定の発信源から信号が複数のアンテナに到達する位相差を測定することによって、検出されます。もしアンテナが、送信機に対して垂直であれば、位相差はほぼゼロになります。角度が大きくなるにつれ、送信機から各アンテナ間の距離が少しずつ変化し、位相差も大きくなります。次にこの位相差データは、送信機と受信機の間の角度を算出するアルゴリズムにより高速処理されます。AoAにより、受信デバイスは、送信機の位置を検出できるようになります。

もう1つの検出方法AoDでは、受信機は1つのアンテナだけを使い、送信機に複数のアンテナを取り付けて、そこから順次送信を行います。AoDでは、受信デバイスは、複数の固定した受信機から検出された角度から空間における自分の位置を算出します。
方向探知機能は、アンテナアレイの複雑性に応じて、二次元でも三次元でも利用できます。また、優れたアンテナアレイとソフトウェアを使用すれば、AoAAoDは、±2度の角度精度、約50センチの位置精度も期待できます。

設計上の課題

Bluetooth 5.1方向探知は、位置確認の洗練された理論的アプローチであり、商業的ソリューションをすでに実現しているメーカーも数社出てきています。とはいえ、実用的なアプリケーションの開発は、決して容易ではありません。Bluetooth開発者の多くは、送受信機の単独アンテナには精通していても、アンテナ・アレイには慣れていません。しかも適切なアレイを使用したとしても、分極、マルチパス干渉、クロック・ジッタ 、伝搬遅延などの要因により、ノイズから純粋な位相情報を抽出するのは至難の業です。

無線信号の角度の計算は、過去にも、医療、セキュリティ、防衛など、各分野の様々なアプリケーションで使用されており、その中にはBluetooth方向探知機能の基礎技術として活用できる実績あるアルゴリズムもあります。とはいえ、対象となるアプリケーションが使用されると想定されるシナリオに対応させるには、かなりの微調整が求められます。さらに、このアルゴリズムには、優れたプロセッサをはじめ、多数のフラッシュメモリおよびRAMメモリを搭載したBluetooth System-on-ChipSoC)の活用が必要です。

無線技術にBluetooth 5.1方向探知機能が追加されることによって、屋内ナビゲーション、資産追跡、より高機能な次世代ビーコンなど、数多くの新たな用途への可能性が拓かれています。Bluetooth技術 の推進団体Bluetooth Special Interest GroupSIG)は、2020年までに 年間4億個ものBluetoothによる「位置情報サービス」製品が発表されると予測しています。しかしながら、 そこに到達するのは容易ではありません。ご興味のある技術者の方は、プロジェクトに着手する前に、まずは正規代理店マウザーのサイトをご覧いただき、ご検討されることをお勧めします。



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筆者

スティーブン・キーピングは、英国ブライトン大学工学部を卒業後、Eurotherm社およびBOC社のエレクトロニクス部門に7年間勤務。その後 Electronic Production誌に移籍し、以後13年間、シニアエディターとして電子機器製造、テスト、設計に関する記事の編集・出版に携わる。代表的記事は、英国Trinity Mirror社およびCMP社、豪州RBIReed Business Information)社に向けた、「エレクトロニクス最新情報」、「オーストラリア電子工学」など。2006年より、電子工学専門のフリージャーナリストとして独立。現在、シドニー在住。

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