(画像:インフィニオン テクノロジーズ)
「戦いは塹壕で決まる」という言葉をご存知ですか。その意味は、現場の最前線で汗まみれになって働く人たちが最終的に勝敗を決するという意味です。実は、電源システム設計の現場でも、現在エンジニアたちによって「塹壕(トレンチ)」での戦いが繰り広げられています。ここでは、その戦いを勝ち取るためには何が必要なのか考えてみたいと思います。
よりエネルギー効率の高い世界への重要な鍵となるのが、ワイドバンドギャップ(WBG)半導体です。このパワー半導体により、電力効率の向上、システムの小型化、軽量化、低コスト化が可能になります。
インフィニオン テクノロジーズは、シリコン(SJ型MOSFET、IGBTなど)、炭化ケイ素(ショットキーダイオード、MOSFETなど)、窒化ガリウムを基盤とする(e-mode HEMT、統合電力段)デバイスなど、幅広い製品・技術を提供しています。炭化ケイ素(SiC)技術の開発において20年以上の歴史を持つ大手パワー半導体メーカーとして、よりスマートで効率的な発電、送電、消費電力のニーズに応えてきました。同社の専門家は、システムの複雑さを軽減するのに何が必要か熟知しており、中・大電力システムのシステムコストとサイズの削減に導きます。
トレンチ型デバイス CoolSiC™
インフィニオンが目指しているのは、炭化ケイ素(SiC)のMOSFET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)による低オン抵抗(RDS(ON))と、安全な酸化膜電界強度条件で動作できるゲート駆動モードデバイスを組み合わせることです。同社では、欠陥密度の高い従来のプレーナ型DMOS(二重拡散金属酸化物半導体)デバイスから、より良好な表面配向を持つトレンチ型デバイスへと注力を移行しています。トレンチ型デバイスは低い酸化膜で低いチャンネル抵抗を実現します。これらの境界条件が、産業機器や自動車アプリケーションで期待されるFIT値(故障率)を保証する上で、シリコンパワー半導体の世界で確立された品質保証手法へと移行する基準となります。こうした背景から誕生したのが、CoolSiC™製品です。
SiCデバイスは、ブロッキングモード時にSiデバイスよりもはるかに高いドレイン電界(kVではなくMV)で動作します。そのため、オン状態やオフ状態の酸化膜での電界が高く、摩耗を早める可能性があります。そこで、オフ状態ストレスには、深いP型領域による保護が適用されます。オン状態ストレスには、薄い酸化膜に残された外因性の酸化膜欠陥を選別する限界を回避するために、厚い酸化膜が使用されます。CoolSiC™製品は、比類のない信頼性、品質、多様な製品ラインアップ、システムの利点を提供します。
CoolSiC™ トレンチMOSFETの特徴と利点は次のとおりです。
- 低いチャンネル抵抗
- 安全なゲート酸化膜電界で動作
- 寄生ターンオンに対する堅牢性
- ハードコミュテーションを可能にし、サージ電流の堅牢性を向上
- JFET領域が短絡電流を制限
- RONにより並列駆動が容易
- Rgによる制御性、温度非依存のスイッチング特性を実現
CoolSiC™ MOSFETとショットキーダイオード
インフィニオンのCoolSiC™ MOSFET のラインアップは、650V、1200V、1700Vの電圧クラスから構成され、ハードおよび共振スイッチングトポロジーに理想的です。(図1)。CoolSiC™ MOSFETは、最先端トレンチ半導体プロセスに基づいて構築されており、アプリケーションにおける低損失、ならびに高い動作信頼性を実現するよう最適化されています。TOパッケージおよびSMDパッケージのラインアップがあり、オン抵抗定格は27mΩ~1000mΩです。CoolSiC™トレンチ技術は、柔軟なパラメータ設定が可能で、各製品ラインアップにおけるアプリケーション固有の機能(例えば、ゲートソース電圧、アバランシェ耐量、短絡耐量、ハードコミュテーション用の定格を備えた内蔵ボディダイオード)の実装に使用されます。
図1:TO-247パッケージの 650V CoolSiC™ MOSFETとD²PAK-7L パッケージの1200V CoolSiC™ MOSFET(画像:インフィニオン テクノロジーズ)
ディスクリートパッケージのCoolSiC™ MOSFETは、力率改善(PFC)回路、双方向トポロジ、DC/DCコンバータ、DC/ACインバータなど、ハードウェアトポロジと共振スイッチングトポロジの両方に最適です。不要な寄生ターンオン効果に対する優れた耐性により、ブリッジトポロジーのターンオフ電圧が0Vであっても、低ダイナミック損失のベンチマークを実現します。TO(トランジスタ・アウトライン)パッケージおよびSMD(表面実装)パッケージ製品には、スイッチング性能最適化用のケルビンソースピンも追加できます。
インフィニオンのCoolSiC™ショットキーダイオードは、比較的高いオン抵抗とリーク電流を提供します(図2)。SiC材料では、ショットキダイオードは非常に高い降伏電圧に対応します。同社のSiC製品ポートフォリオは、600Vおよび650V〜1200Vのショットキーダイオードをカバーしています。高速のシリコンベースのスイッチとCoolSiC™ ショットキーダイオードの組み合わせは、ハイブリッドソリューションと呼ばれています。
図2:車載用CoolSiC™ショットキーダイオード (画像:インフィニオン テクノロジーズ)
CoolSiC™ MOSFETモジュール
CoolSiC™ MOSFETを搭載したパワーモジュールは、インバータ設計において、これまでにない電力効率と電力密度レベルを実現する新たな可能性をもたらします(図3)。また、炭化ケイ素(SiC)は、スイッチあたりオン抵抗(RDS(ON))が45mΩから2mΩまでのさまざまなトポロジーを可能にし、アプリケーションのニーズに応えます。SiC MOSFETモジュールは、3レベルANPC、デュアル、4パック、6パック、ブースターなどのさまざまな構成で利用可能で、最先端のトレンチ構造による優れたゲート酸化膜の信頼性、最高クラスのスイッチング性能と低伝導損失を実現しています。
図3: CoolSiC™ MOSFET Easy1BおよびEasy2B (画像:インフィニオン テクノロジーズ)
まとめ
SiC MOSFETには、トレンチ型MOSとプレーナ型DMOSの2種類の異なる構造があります。インフィニオンでは、あらゆるアプリケーションで使用しやすく、電力損失の低減と高信頼性を実現できる先進のトレンチ技術を採用しています。同社のCoolSiC™は、その卓越した性能により、性能と品質のバランスのベンチマークとなります。インフィニオンのゲート酸化膜スクリーニングプロセスは、製品の信頼性を確保します。
インフィニオンの炭化ケイ素CoolSiC™ MOSFETおよびショットキーダイオードは、よりスマートで効率的な電力の生成・伝達・消費を可能にします。CoolSiC™製品ポートフォリオは、システムの小型化、中・大電力システムのコスト削減のニーズに対応し、しかも最高の品質基準を遵守し、システム寿命の長期化、信頼性の確保を実現します。CoolSiC™を採用することにより、システム運用コストを削減しながら、最も厳しい電力効率目標が達成できます。つまり、インフィニオンのCoolSiC™ソリューションを活用して、「トレンチ」を制することが、電源システム設計における勝利の鍵となるはずです。
著者
ポール・ゴラータ
2011年マウザー・エレクトロニクスに入社。シニアテクノロジースペシャリストとして、戦略的リーダーシップ、計画の実行、全体的な製品ライン、高度技術製品に関するマーケティング指導などを通じてマウザーの実績に貢献している。また設計技師に電気工学の最新情報やトレンドを伝えるため、ユニークかつ貴重な技術コンテンツを配信し、マウザー・エレクトロニクスの理想的な企業としての地位強化にも貢献している。
マウザー・エレクトロニクス以前は、Hughes Aircraft Company、Melles Griot、Piper Jaffray、Balzers Optics、JDSU、及びArrow Electronicsに勤務。製造、マーケティング、及び営業関連に従事した。DeVry Institute of Technology(イリノイ州シカゴ)にてBSEET(電気工学技術の理学士号)、Pepperdine University(カリフォルニア州マリブ)にてMBA(経営学修士号)、Southwestern Baptist Theological Seminary(テキサス州フォートワース)にてMDiv w/BL(神学及び聖書文学修士号)及びPhD(博士号)を取得。
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