2020年12月22日火曜日

インダストリアライゼーション + デジタイゼーション: 機械学習時代のインダストリー4.0

 

 

このブログでは「第4次産業革命」とも訳されるインダストリー4.0の具体的な特徴だけでなく、工業生産や日常生活のさまざまな場面での実例を使ってインダストリー4.0の代表的なシナリオをご紹介します。インダストリー4.0の発展においてはさまざまな専門技術が使われますが、その中でも重要な役割を果たすと予想されるのが機械学習とデータです。インダストリー4.0がもたらす私たちの未来では、インダストリアライゼーション(産業化)とデジタイゼーション(デジタル化)が合体するため、大手企業と中小企業はそれぞれ異なるチャンスや課題に向き合うことになるでしょう。

 

I. インダストリー4.0の概要

昔の未来研究者たちの多くは、2020年には当時SFの世界だったスマート機器が溢れていると予測しました。例えば家事をしてくれる家庭用ロボット、道路や空を自動運転で走り回る自動車や飛行機、オーディオ・ビジュアルの娯楽機器としては次世代、または最終段階となる没入型VRなどです。世界はまだ新型コロナウィルスに支配されているため、このビジョンが正しかったかどうかを2020年の年末までに明らかにすることは難しいですが、このビジョンを具現化できる第4次産業革命(インダストリー4.0)が進行中であることは確かです。

2013年にはすでにインターネットやコンピュータ技術が発展し、関連するインフラも徐々に整い始めると、ドイツがインダストリー4.0のコンセプトの先陣を切りました。さまざまな分野における人々の生活を向上させるためにサイバー・フィジカルシステムを活用する新しい技術革命です。このコンセプトはその後、後から参加した他の国の開発計画に取り入れられ、インダストリアライゼーションとインフォマタイゼーション(情報化)を組み合わせることで、従来の産業技術やサービスをベースにした新しい成長分野の創造を図りました。

 

現在インダストリー4.0に関わる技術の開発と拡散は最高潮に達しています。ソフトウェアに関しては、拡張現実の技術により、ユーザーは今までにないオーディオ・ビジュアル体験が可能になり、特定の分野(警察、医師など)では研修プログラムに使われるようになりました。モノのインターネット(IoT)技術は、センサクラスタを活用して電気器具を総合的に監視し、また産業サイバーセキュリティ技術が発展したことで、ハッカー攻撃を阻止するために企業のネットワークを適切なタイミングで監視できるようになりました。ハードウェアに関しては、3D印刷技術により、いかなる段階のユーザーも想像段階の物を素早く製造・設計することができます。また産業ロボットの普及により製品の製造は必ず標準化及び合理化されます。

 

II. インダストリー4.0の代表的なシナリオ

データとそれを活用する機械学習技術は、第4次産業革命の中心に位置づけられます。データはセンサから取得され、インターネットを介してクラウドサーバーに転送、機械学習及び人工知能のアルゴリズムを使って分析されます。その後データはサービス端末または産業ロボットに返され、完全なワークフローを完成させます。インダストリー4.0の代表的なシナリオには、ユーザーの理解を深めること、製品の製造、製品品質のモニタリング、販売・物流、及びユーザーのフィードバックが含まれており、それぞれがデータと機械学習に幅広く関与しなければシナリオの成功はありません。

1.ユーザープロフィール

 携帯電話のホストやコンピューターソフトのプログラムはすでにユーザーデータを格納及び分析しています。またいくつかの実店舗ではRFID(無線自動識別)チップを使用してユーザーの好みを記録したり、推奨アルゴリズムなどを介してユーザーデータを分析したりすることで、製品や関連コンテンツを推奨及びアップデートしています。インダストリー4.0が進むと、使用頻度、好み、使用方法、スケジュールなどを含むユーザーデータはメディアに記録され、このメディアが携帯のアプリから家電、会社の機器、医療装置まで、すべてに使用することができるようになります。このデータは機械学習アルゴリズムを介して分析され、多次元の分類ラベルを作ります。ユーザーをその複数のラベルで解析することで、各ユーザーの正確なポートレートが構築できるようになります。  

 

2.製造プロセス

包括的なユーザープロフィールは、生産レベルでパーソナライズ化を高めるという意味では非常に有益です。インターネットを閲覧するユーザーに対してコンテンツをパーソナライズ化する方法と同様に、第4次産業革命時代の今は、高度に洗練されたユーザープロフィールが直接製品製造プロセスに適用されるため、企業はユーザーのニーズを満たすパーソナライズ化された製品を作りやすくなるのです。パーソナライズ化された製品とは、ユーザーデータを使った予測をベースにしたカスタムメイドであり、常に対象ユーザーに多くの可能性を提供します。 

このように何を生産するかという意思決定に影響を与えるだけでなく、インダストリー4.0のIoE(あらゆるモノがインターネットにつながる世界)技術や産業ロボティクスを利用することにより、製造プロセスのさまざまな手順の管理が完全自動化されます。直前に実行された手順の結果や製品要件は同時進行で分析されており、それに基づいて次の手順がリアルタイムに微調整されます。このような「スマートファクトリー」では生産ラインの制御性やロバスト性が高まるほか、労働者の仕事もこれまでの反復作業からロボットエージェントの監視へと変わります。電気自動車のテスラ社は、当初より自動制御可能な工場の建設に取り組んでいます。生産組立ラインに産業ロボットを使用するだけでなく、倉庫保管、材料、材料管理、発注、販売プロセスにもすべてAIを使った高度な自動化を実施しており、テスラ社の業界トップの技術ポートフォリオと売上に貢献しています。

 3.品質管理

 プロセス関連データの分析と管理に加え、機械学習とマシンビジョンの技術を合わせて使うことで、大規模かつ高精度の製品検査を自動化することができます。これにより目視だけでは確認することが難しかった複雑な欠陥を特定できるようになります。AI科学者として有名なアンドリュー・ン教授が率いるAIアルゴリズムのLanding.AI社は、AIとマシンビジョンをベースに機器のガス漏れを検知する気泡検出器を最近発売しました。このマシンビジョンシステムにより、非常に細かい気泡とガス漏れの場所をコンピューターで見つけることができるようになります。このシステムによる認識のエラー率は、従業員の目視による気泡検出の平均エラー率30%をはるかに下回ります。このシステムに生産プロセス全体から得たデータを組み入れれば、問題のエリアや生産ラインが素早く見つかるだけでなく、人件費や認証エラーも大幅に減少します。

 

4.迅速な物流

 生産プロセスの最後には、物流の問題について規定しなければなりません。産業ロボットがあれば、配送準備として自動で製品を梱包し、製品情報や配達先住所を含む固有のQRコードを梱包したパッケージに印刷することができます。この配送プロセスの主な作業を自動操縦システムで実行することが期待されています。10年後から15年後には、コンピュータービジョン、機械学習、制御技術に基づく自動運転技術が完全商品化されると言われているため、配送や物流の作業はこれまでよりもシンプルかつ効率的になると共に、人件費も大幅に削減されるでしょう。2017年、eコマース大手のアリババ社は、スマートロボットによる倉庫の第一弾を稼働させ、子会社のCainiao(菜烏)は顔認証やドローンを使った配達技術などの実施を開始しました。2019年末には、Cainiao Logistics(菜烏網絡)の評価額は2,000億元に達しており、今後IoTや自動運転技術が普及する頃には、人がパッケージを探すのではなく、パッケージが人を探すようになるかもしれません。

 

5.サービスとフィードバック

ユーザー側に関しては、製品の感知システムがアップロードするデータをクラウドの機械学習アルゴリズムで分析することができ、これによってデータに異常がないかどうかを判断し、その製品の性能をリアルタイムでモニタリングすることができます。さらに何か問題が発生した際には、トレーニング後のAIシステムが、チャット、電話の応答、ビデオ接続などによって効率的に対処するため、問題点に関する迅速なフィードバックとタイムリーな解決を実現することができます。2018年に発表されたBERTモデルは、チャットボット分野においてすでに人間を超えており、その関連アプリケーションは、インターネット大手の製品(Microsoft Avatar、Ali Xiaomi、IBM Watson)や新しいAI会社(Fourth Paradigm、C&Tなど)においてすでに重要な役割を担っています。

 

III. インダストリー4.0の特徴

インダストリー4.0の大きな特徴は、上述のシナリオでも示しましたが、主に以下を含みます。

 1.統合と相互接続

第三次産業革命(インダストリー3.0)のおかげで、世界中の人々はインターネットという媒体を通じて他の人やモノと簡単につながることができるようになりました。しかしインダストリー4.0では、複数のセンサがハードウェアの1つのピースに統合され、マシン対マシンのコミュニケーションができるようになります。例えば印刷・染色業界では、生産システムの中心部である管理システムが染料の配分、染料の配置、自動塗布、自動水供給、及び組立ライン全体の検査システムを調整するため、自動制御が可能な染色を実現するほか、製品の効率性・安定性を大幅に向上させます。さらに情報・物理的システムやクラウドコンピューティングが提供する機械学習エンジンを利用すれば、すべてのモノが本当の意味で相互接続されます。例えば、人対人、人対マシン、マシン対マシン、サービス対サービスです。「接続」が世界標準になれば、装置、生産ライン、工場、サービスなど、生産からサービスまでのプロセスの全要素を密に連携できるようになります。

 

2.データとデジタル化

インダストリー4.0体制において情報技術を取り込むということは、必然的にデータが工業生産の生命線になるということです。このデータは、製品データ、装置データ、研究開発データ、サプライチェーンデータ、操作データ、ユーザーデータなど、生産や関連サービスのあらゆる要素を含みます。データは、機械学習アルゴリズムのトレーニングや最適化において重要な役割を果たしますが、一方では、機械学習アルゴリズムの導入には継続的にデータを生成する必要があり、これによって関連生産プロセスを適切に制御することができます。つまり、生活や生産プロセスのあらゆる要素をできる限りデジタル化する必要があるのです。ということは、自動システムを効果的に埋め込むには、合理的な測定方法を使ってすべてのモノを数値化しなければなりません。そのためには、データの科学者がデータの現状を踏まえたプロセスを設計し、システムが正しいデータを収集するよう誘導し、さらに適切な測定方法を常に設計及び最適化しなければなりません。

 

3.洗練化とパーソナライズ化

インダストリー4.0では、比較的特異及び詳細なデータフロー要件が課されるため、生産プロセスに含まれるさまざまなモジュールは、ますます洗練されてくるでしょう。生産ラインの各パートのモジュラー化や詳細化が進むため、ユーザーニーズをより反映、予測しながらパーソナライズ化した製品を生産できるようになり、「生産-販売-フィードバック」が好循環する製品サイクルが実現します。
 

IV. インダストリー4.0によるチャンスと課題

インダストリー4.0の到来により、たくさんのチャンスが生まれました。全体的な生産プロセスは統合することができますが、データプロセスに関わるワークロードに関しては複数の部門、または複数の企業にまで広がる可能性があります。その結果、小規模企業が作った一つの突破口が、大規模な統合プロセスの一環として後に非常に重要な役割を果たすかもしれません。同様に自動制御可能な機器をさまざまな分類モデル、区分けモデル、トレンド予測モデルなどを使って分類することができます。また、データ伝送システム、データ取得装置、データフィードバックシステムなどのモジュールに分け、各モジュールを他の生産プロセスに埋め込むことができるようになります。例えば、データ取得装置が他の精密機器を使った生産プロセスと生産ラインを共有することができます。このように、多くの小規模企業がインダストリー4.0を利用して、自社の強みを別の角度から活用することができるのです。
 

現状では、インフラの構築が今後の重要産業になると思われます。昨年5G技術をめぐってアメリカと中国の間に摩擦が生じ、また近年は多くのインターネット会社が自社専用のクラウドコンピューティングプラットフォームを構築しています。これらの事実からも分かるように、会社の利益や国家安全保障を保護するという観点から、インダストリー4.0ではインフラが重要なのです。さらにデータもまたある意味インフラであり、大量のデータを保有する大手インターネット企業は特に、これらのチャンスを最大限共有する傾向にあります。小規模企業もまた、まだデータドリブンになっていない生産分野や生活分野を探しだすというチャンスがあります。特に未だデータ化されていない業界(伝統的な重工業など)やデータがあまり使用されていない業界(医療業界など)は期待できます。

インダストリー4.0におけるデータと機械学習技術の必要性は、主流である大手企業にとっては課題でもあります。理由は、現在の開発段階において、大手企業は自社製品用の大型生産ラインがあるため、このラインに感知システムやIoTシステムを追加するとなると、高額な投資が必要になるためです。また大手企業は、生産ライン及び製品設計に機械学習技術を組み入れるために、人材の投入だけでなく、経営哲学の改革も行わなければなりません。また近年の機械学習技術の普及により、各企業は、意思決定プロセスのすべての要素をAIに頼るようになったため、意思決定者の「良い投資と悪い投資を見定める能力」を阻む課題も生じています。

インダストリー4.0が徐々に人々の日常に入り込むようになると、現在では予測できない新しいアプリケーションが多く開発されるでしょう。ついにIoTが何百万世帯にも浸透し、自動運転が広範囲にわたって利用されるようになれば、私たち人間は現在の大量の反復作業から解放されます。そうなると、以下のような質問が出てくると思います。「インダストリー4.0の影響で、将来の仕事はコンピューター業界やデータ分析に集中するということ?」「私たちは仕事が与えられるまで待つ時間が増えるってこと?」「対人関係や、人間と機械の関係はどうなるの?」21世紀になって30年目に突入しましたが、人類にとってこれらの質問は今でも答えるのが難しい状況です。ただ確かなのは、インダストリー4.0が予測可能な未来にとってのメインテーマになるということです。

 
 
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著者
 
Wang Dongang


シドニー大学の博士課程に在籍中。研究内容は医療画像撮影、人工知能、脳科学、映像解析に及ぶ。また機械学習技術の日常生活への応用について常に努力を注いでいる。CVPRECCVなど有名な国際会議にて論文を発表。米国IEEETransactions on Circuits and Systems for Video Technology(映像技術の回路及びシステムに関するトランザクション)及びTransactions on Multimedia(マルチメディアに関するトランザクション)を含むジャーナル誌、AAAI及びICMLを含む会議の評議員として参加。機械学習及びコンピュータービジョンのアルゴリズム開発において豊富な経験を持つ。多視点映像による行動認識、監視ビデオに基づく道路管理、脳のCT用自動トリアージシステムなどを含むプロジェクトにおいて、中国、アメリカ、オーストラリアの企業及び機関に協力している。


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