2021年12月3日金曜日

5GによるV2X通信でクルマは進化する ~前編~

 

V2Xのような新しい車載ネットワークのアプリケーションやユースケースには、データ速度、遅延、信頼性、通信距離などの厳しいサービス品質(QoS)が求められます。自動運転車を開発するにあたって究極的に必要となるテクノロジーは、カメラ、レーダー、LiDAR3種類のセンサが中心になります。しかし、既存の無線通信技術であるV2XVehicle to Everything)は、自動車とあらゆるモノをつなげ、自動運転車に大きな付加価値をもたらします。V2Xとは、交通・輸送関連のさまざまなセンサ間での広帯域・低遅延・高信頼性通信を指します。5G携帯ネットワークによって、V2VVehicle to Vehicle:車車間)通信やV2IVehicle to Infrastructure:路車間)通信の接続性が確保されることになるでしょう。

 

この記事では、移動通信の標準化団体3GPP3rd Generation Partnership Project)が、現在の専用狭域通信(DSRC)やセルラーV2X 通信(C-V2X)プロトコルよりもメリットの大きい5G V2Xアプリケーションに採用することを目指している点について説明します。なお、C-V2Xのセルラーという言葉は若干誤解を招きやすいかもしれません。ここでのアプリケーションでは、5Gのような携帯電話ネットワークではなく、2つのセルラー無線機間で通信を行うために使用される基本的な電子機器技術を指します。

 

 

テクノロジーの進化が始まる

 

通信技術として、次世代の高度道路交通システム(ITS)サービスは、すでに広く普及しています。これがやがて自動運転へとつながり、それと同時に5G V2Xのような高度通信技術による高レベルな車載コネクティビティ技術が必要になります。学界と産業界が長年の研究を重ね、5G技術が実現した今、3GPPRelease 16を手始めに、5G V2X向け標準仕様の策定を進めています。

 

まず、V2Xの定義を見てみましょう。このVehicle-to-Everything(自動車とあらゆるモノをつなげる)技術とは、自動車や電気自動車と、その自動車に影響を及ぼす可能性のある、あらゆるモノとの間の双方向通信を指します。V2Xアプリケーションは、完全自動運転が実用化される前に、安全性と利便性の進歩に大きく貢献するでしょう。またV2X技術は、交通渋滞の緩和、環境負荷の低減、ドライバーや同乗者の乗車体験の向上などにも期待できます。

 

5Gは、V2Xを組み合わせることで、自動車と歩行者の安全性を高めることができます。距離/方位情報によって、緊急車両の接近や歩行者が横断歩道(交通信号機)にいることを自動車に知らせ、制御することで、歩行者の急な飛び出しなどを察知し、事故を未然に防ぐことができ、予期せぬ事態に対する安全性が強化されます。事故が予測されると、その位置と距離情報が通知されます。スクールバスのような車両に関しては、周辺の子どもたちの乗降車状況なども通知され、歩行者の安全が確保されます。なお、セルラーV2XC-V2X)は、V2Xのサブセットになります。

 

C-V2Xは、カメラ、レーダー、LiDAR(ライダー)などのLoSLine-of-Sight:見通し内)センサを補完し、より安全な運転に不可欠なNon-LoS(見通し外)環境の認識を可能にします。またC-V2Xは、LoSセンサよりも広いセンシング範囲に対応しており、自動車と周囲のあらゆるものとの間の通信の基盤になります。3GPP2014年のRelease 14でセルラーV2X C-V2X)の標準化策定を開始しました。基盤技術としてLTEが採用され、 2017年に標準仕様が完成しています。

 

EV電力伝送通信機能の種類には、V2IVehicle to Infrastructure:路車間通信)、V2NVehicle to Network:車ネットワーク間通信)、V2VVehicle to Vehicle:車車間通信)、歩行者や自転車などの交通弱者とのV2PVehicle to Pedestrian:歩車間通信)、V2DVehicle to Device:車デバイス間通信)、V2GVehicle to Grid:車グリッド間通信)などがあります。 


1:主なC-V2Xのユースケース: V2VVehicle to Vehicle:車車間通信)、V2PVehicle to Pedestrian:歩車間通信)、V2IVehicle to Infrastructure:路車間通信)、V2NVehicle to Network:車ネットワーク間通信)。V2Xの車両安全メッセージには、欧州の CAM(協調認識メッセージ)やDENM(分散型環境通報メッセージ)、米国のBSM(基本安全メッセージ)などがあります。(画像:Reference 1

 

また、自動車業界では、5G V2X に対応したオンボードユニット(OBU)のコストを削減し、自動車の価格上昇を最小限に抑える方法を模索しています。

 

5GV2X

5G は、V2Xをより簡単で、より速く、より信頼できるものにします。5GV2Xフレームワークの主な違いは次の通りです。

 

  • 5Gは、他の無線モバイルサービスと同様に、インフラを使用しており、そのサービスエリアは小さなセルで分割され、基地局と呼ばれるアンテナシステムで管理されています。
  • V2Xは、他の無線通信サービスと同様に、より柔軟な構造を持ち、ホットスポットと呼ばれる小型アンテナデバイスシステムが、強力な協力戦略によるベストエフォート接続を保証します。

 

DSRCC-V2Xの比較

自動車の安全性を確保するために使用されている高速通信プロトコルは、DSRCC-V2Xです。この2つのプロトコルは、非常に高速で動作し、低遅延で高周波データ交換を行います。DSRCのデータレートは、5850MHZ5925MHzの帯域で6Mbps26Mbpsです。C-V2xのデータレートは、26MbpsRXMax 26MbpsTX)です。どちらも5.9GHz帯で動作し、同じユースケースと同じメッセージセット(SAE J2735J2945)を使用し、さらには、どちらもメッセージプロバイダによるセキュリティと信頼性のデジタル署名を使用します。DSRC無線とC-V2X無線は互いに通信できませんが、他の無線の電波を傍受しながら、車の位置、加速度、速度を送信しています。

 

この2つの技術は異なる無線規格を使用しています。DSRCWAVE IEEE (802.11p)を、C-V2Xは携帯電話用通信規格LTELong Term Evolution)を使用しています。FCC202011月、5.9 GHz帯をWi-FiC-V2Xに割り当てました

 

この2つの無線技術は、互いに通信できず、それぞれの通信範囲も大きく異なっています。DSRCの通信範囲は約300m程度であるのに対して、C-V2Xは低遅延であり、通信範囲も20%から30%広く、障害物がある場合でもDSRCよりもはるかにパフォーマンスが優れています。総合的に言って、C-V2Xのほうが性能において圧倒的に軍配が上がります。しかし、主要な安全性アプリケーションに対応する十分なカバー範囲と信頼性を備えているのは、依然としてDSRCなのです。

 

C-V2Xの サイドリンク通信

5GRelease 16では、5G New RadioNR)によりC-V2Xにサイドリンクをもたらしました。このリリースによって、隊列走行、先進運転、拡張センサ、遠隔運転などの C-V2Xアプリケーションが進歩しました。危険な状況では、緊急ブレーキや衝突回避などが必要なため、厳格な遅延要件や高信頼性が保証されなければなりません。C-V2Xの最小伝送遅延は、4msを上回ることがなく、実装によってはそれ以下にすることも可能です。ここで信頼性を数値化するのは難しいですが、新しいリリースが出るたびに、性能や安全性にさまざまな改良を加えており、信頼性は強化されています。安全性と信頼性の向上に向けて、今後も新たなリリースが予定されています。

 

特に V2X開発の最初の段階では、短距離通信で行われるトラフィックのほとんどは、各車両がそれぞれの状態と動きを伝える定期的な送信メッセージになります。

 

交通量の多い地域では、利用可能なチンネルリソースが飽和状態となり、パケットロスが増加します。この状況はドライバーや歩行者の安全を脅かす可能性があります。状況が危険レベルに達する前に、特定のパラメーターを修正するための輻輳制御アルゴリズムが検証され、定義されています。しかし、研究者たちは、特定のアルゴリズムではなく、 Wi-Fi 標準アプローチ(IEEE 802.11p)とセルラー標準アプローチ(Release 143GPPによりC-V2X の一部として定義されたサイドリンク LTE-V2X)を比較しました。

 

C-V2X通信は、3GPPによって開発された技術で、PC5インターフェイスとも呼ばれるサイドリンクにより車両ユーザー機器(VUE)間の直接通信を可能にします。C-V2Xサイドリンクは、物理層に距離を導入した最初の無線システムです。 これにより、LoSであるかNon-LoSであるかにかかわらず、さまざまな無線環境において均一な通信を実現できるようになります。

 

C-V2Xには、Release 14から2つの通信モードが搭載されるようになりました。最も即時性が高く、遅延に敏感な通信向けの直接通信モード (PC5)と、ユーザー機器をUMTS地上無線アクセスネットワークに接続するためのネットワークモード(Uu)です。 同報通信には既存の携帯通信ネットワークを利用します。

 

PC5モード:

  • 1 モード3(スケジュール型):サイドリンクリソースの割当は eNodeB(基地局)の監視下で実行され、無線リソース管理にはセルラーインフラのサポートが必要です。
  • 2 モード4(自律型):リソースおよび干渉の管理は各車両が分散して行い、セルラーインフラを使いません(携帯電話のエリア外でも使用可)。

 

 

~後編を読む

 

 

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