運転者のいない自律走行輸送は、人類にとってここ10年の大きな夢だといえます。そしてこの夢の実現に必要なものは、全自動運転の諸問題を解決できる「技術の組み合わせ」です。
完璧なマッチングの探求
自律走行車は、膨大な情報をリアルタイムに処理しなければなりません。例えば、衝突を防ぎ、障害物と歩行者を探知し、無料の駐車スペースを認識するためには、他の自動車や交通インフラ(信号機、安全装置など)、フォグやクラウドプロバイダー、さらには自動車メーカーと、大量のメタデータをやり取りしなければなりません。Intel®によると、1台の車につき、毎日3.9TB(テラバイト)のデータを処理しなければならないということです。これはインターネットユーザーが1日に使用するデータ量の2,666人分に相当します。超音波機器、レーダー、GPS、カメラ、車載インフォテインメントなど、車の機能のデータ量が含まれるためです。
車対車(V2V)、車対交通インフラ(V2I)、車対ネットワーク(V2N)、及び車対歩行者(V2P)を含む「車とすべてのモノ」の通信を総称してV2Xといいますが、このV2Xによる安全で拡張性のあるデータのやり取りを実現するため、アメリカの電気電子技術者協会(IEEE)及び運輸省を中心に新しい基準が開発されています。
しかし、V2Xの基準だけでは十分ではありません。車両は、道路の安全性を損なうことなく、リアルタイムに複雑な決定を自主的にしなければならないのです。そのためには、V2Xシステムと移動体通信のエコシステムの統合が可能であること、そしてこの移動体通信の速度やデータ処理能力が人間の反射神経能力に匹敵することが必須条件です。自動運転の路上テストで発生した事故の報告書においても、近年はこの条件が特に注目されています。3GPP(3rd Generation Partnership Project)が定めるワイヤレス基準では、5Gがこの条件を満たすカギとなっています。
5GをV2Xユースケースに適合させるには?
AVの大前提の1つに、継続的に周囲環境を感知し、リアルタイムで軌道を選択するということがあります。帯域幅が制限される無線環境において、相当量のノイズや干渉、極めて動的な外部要因を処理しなければなりません。回線容量が高いだけでは、V2Xユースケースには対応できないのです。ネットワークインフラも、全通信範囲において、遅延なく信頼できるネットワークとデータセキュリティに対応していなければなりません。
将来的にすべてがネットワークに接続された自動運転車両を実現することができるV2Xユースケースは、以下を含みます。
- 協調型認知(例:緊急車両の警告)
- 協調型検知(センサのローデータのやり取り)
- 協調型操作(車線変更、隊列走行、交差点制御など、車両間の軌道調整)
- 交通弱者 - 歩行者、自転車等の通知
- 道路交通の効率性(ルートや地図の動的更新)
これらのユースケースに対応するには、複数のワイヤレス技術が必要でしょう。例えば、短距離で端末間の直接通信(V2V、V2I、V2P)の場合、スケジュールに沿ってネットワークに依存する必要はありません。この場合は3GPPRelease 12/13 LTE Proximity Services(ProSe:近接度に基づいたサービス)の端末間インターフェースを使用して、近くの車両間で大量データを送信し合うことで、ほとんど遅延なく確実にデータ転送ができます。端末とネットワーク間のV2N通信の場合は、5G新無線(5G NR)技術が適しているため、従来のセルラークラウドサービスが必要です。
接続性と性能
自動運転時代の最大の課題は、データ・端末量の拡大化への対処です。4G/LTEと比較すると、単位面積当たりの5Gの情報処理量は1,000倍、データ転送量は10,000倍、そして接続機器の数は100倍です。ミリ波周波数帯を使用する5Gのスモールセル技術はスペクトル効率が高く、帯域幅が制限されるV2X環境にとっては大きなメリットとなります。
信頼性
5Gは、欠くことのできないV2Xユースケースに必要となるレベルの信頼性の確保に、超低遅延(1,000分の1秒未満)を提供します。相対的には、無線データの方が傍受しやすく、中間者の攻撃にも弱い面があります。5Gは、相互認証、端末安全性、トランスポートレイヤーセキュリティ、ファイブナイン(99.999%)の稼動率、5Gエレクトロニクス向けOTAファームウェアのアップデートなどにより、セキュリティ面の改善が期待されています。
ネットワークスライシング
5Gのネットワークスライシング機能は、仮想化されたハードウェアプラットフォームのバーチャルマシンのように、同じインフラ上において、プロバイダーによって異なるさまざまな自動車サービスに対応することができます。これによって例えば、通信会社、交通インフラ会社、及び自動車メーカーが、車両やその車両に乗っている人に対し、共通の5Gインフラを使用してそれぞれ異なるサービスを提供できるようになるのです。
5G V2Xの要件と設計上の検討事項
車両とバックエンドインフラを接続するためには、通信システムの新しい設計要件を5G
V2Xアプリケーションが満たさなければなりません。5G
V2Xの仕様は、3GPPRelease 16に一部含まれます。
3GPPや5GAA(5G Automotive Association)のようなフォーラムは、5G V2Xシステムの性能要件を、遅延、信頼性、データ転送速度などの面から特定しています。3GPPでは、5G V2Xの要件に関し、以下の5つのカテゴリを示しています。
- 一般:相互に作用する通信関連要件。V2Xの全シナリオに有効
- 車両の隊列走行:非常に短い車間距離で複数の車両が連なって走行する
- 先進運転:半自動または完全自動運転
- 拡張センサ:V2X対応の全機器と全ネットワーク要素の情報交換
- 遠隔運転:オペレーターが運転を遠隔制御する(例:危険区域など)
ここで注意しておきたいのは、5G
V2Xシステムの要件は、ユースケースによって異なるという点です(図1参照)。例えば一般的な車線変更の場合、緊急事態の協調型操作に比べて遅延や信頼性に関する厳しい要件は必要ありません。
図1:3GPPガイドラインに従い、5Gの遅延及びデータ転送速度に関するV2Xの要件を示します。これらの要件は、自動車部品メーカーのデータに基づいて微調整されています。(引用元:arxiv.org「5G/V2Xのユースケース、要件、及び設計上の検討事項」)
まとめ
AVは、「車輪の付いたデータセンター」であり、最先端のコンピューティング能力に大きく依存しています。現在、自動運転車に関する1週間分のデータを高度なWi-Fiを使って転送する場合、230日かかります。そのため、5G V2Xに対応するには、製品及びアプリケーションの集積回路における画期的なイノベーション、つまりNR技術やアンテナの構造に対応できるようにすることが不可欠なのです。
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著者
Sravani Bhattacharjee:
データ通信技術者として20年以上のキャリアを持つ。産業IoTのセキュリティ分野初の書籍「Practical Industrial IoT Security」(実践的な産業IoTのセキュリティ)の著者。2014年までCiscoの技術リーダーとして、エンタープライズ向けクラウド/データセンターソリューションのアーキテクチャや製品計画を複数手掛ける。現在はIrecamedia.comのトップとして、産業IoTイノベーターと連携しながら、多岐にわたる技術系マーケティングコンテンツを制作することで、認知度の向上及び経営的意思決定の促進を行っている。電子工学の修士号取得。IEEE
IoT Chapterのメンバー。作家。講演者。
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