私の子供時代はもはや遠い昔です。あの頃は、携帯電子機器はもちろん、ビデオゲームも、小型ゲーム機もありませんでした。遊びといえば、「プレイ・ドー」や「シリーパティー」といった粘土系のおもちゃや、フリスビー、マジック8ボール、そしてバネ状でユニークな動きをする「スリンキー」が人気だった時代。中でも私のお気に入りは、マテル社の「ホットトップ」というコマのおもちゃでした。基本的には、ケースの内側でホイールが回転するジャイロスタットなのですが、当時、画期的なコマとして発売されました(図1)。そのからくりは高速回転するハイテクベアリングにあり、コマは高速で回転するため、なかなか倒れませんでした。もっと速く回してやろうとコマ先を何度も床に擦りつけてから、床に放ったときにたてるあのコマの音が、今でも蘇ってくるようです。
図1: おもちゃのコマ(画像:RODRIGO SAINZ/Shutterstock.com)
実はこのコマには、ジャイロスコープの原理が応用されています。ジャイロスコープは、角運動量保存の法則により、回転中は垂直の状態を保ちます(ニュートン(1687)、ラプラス(1799)、フーコー(1852)、ランキン(1858)など)。この現象を利用して、ジャイロスコープは物体の向きや角速度の維持または計測に使用されています。
MEMS
今日のエレクトロニクス設計では、この機械的知識をセンサに応用しています。このようなセンサには、微小電気機械システム(MEMS)技術が採用されます。MEMSセンサ技術は、複数のセンサやソフトウェアソリューションを1つに統合させて、センサフュージョンを実現します。そのため、情報通信技術(ICT)、モノのインターネット(IoT)、自動車など、さまざまな大規模産業に向けたソリューションが可能になります。半導体メーカーは、この統合ソリューションを調整して、組み込み補償やセンサ処理、さらにはシンプルなプログラマブルインターフェイスに活用しています。
そんななか、人間の知覚に迫るMEMSセンサ技術の最前線にいるのが、TDK InvenSense社です。InvenSenseは、TDKのセンサシステムズビジネスカンパニー 内の一部門で、 コンシューマー、産業、自動車、IoTなどの市場に向けたMEMSモーション、オーディオ、および圧力ソリューションのリーディングメーカーです。高性能MEMSマイク、圧力センサ、MEMS 3/6/7/9軸モーションセンサなど、InvenSenseの幅広い製品ポートフォリオにより、TDKは性能と品質の限界を広げ、さまざまな業界に向けた技術革新を強化しています。今回は、TDK InvenSenseのMEMS慣性計測ユニット(IMU)で物体の位置がどのように把握できるのかについて説明したいと思います。
IMU
MEMS技術によって、高精度なジャイロスコープや加速度センサ、磁気センサ、圧力センサを複数軸で組み合わせ、ひとつのデバイスに統合することが可能になりました。このように複数の異なるセンサが統合されたデバイスのことを、慣性計測ユニット(IMU)といいます。IMUは、身体のある部位のにかかる力、角速度、身体の向きなどを検出・計測するデバイスです。アイザック・ニュートン(1642–1726/27)は、慣性を「運動の第1法則」(『自然哲学の数学的諸原理』1687年)として次のように定義しています。「すべての物体は、外部から力を加えられない限り、静止している物体は静止状態を続け、運動している物体は等速直線運動を続ける 」。MEMS技術は、極めて複雑なアプリケーションを使用する場合や動的環境下でも、複数の自由度(DoF)を確実に検出・処理します。
複数の自由度
IMUを選択する際に重要な基準の1つとなるのが自由度です。IMUには、通常2〜10の自由度があります。
自由という言葉は、文脈によってさまざまな意味を持ちます。ここで言う自由とは、選択の自由や政治的自由ではなく、物理学、特に力学における自由です。力学では、自由度は、物体の位置や運動状態を表す並進運動や回転運動に対応します。例えば、力を加えても変形しない物体(剛体)の場合、並進と回転にはそれぞれ3自由度があり、合計6自由度になります(図2)。
- 並進:前/後
- 並進:左/右
- 並進:上/下
- 回転:横(ロール)
- 回転:前/後(ピッチ)
- 回転:左/右(ヨー)
図 2:6自由度。3次元空間における剛体の動きの可能性: 前後、左右、上下、および3軸を中心とした回転。(出典:Peter Hermes Furian/Shutterstock.com)
加速度センサ(速度の変化を計測 → 位置を取得)とジャイロセンサ(角速度を計測 → 向きを取得)を組み合わせてデータを収集することで、デバイスは最大6自由度を計算することができます。では、6を超える自由度(DoF)がなぜあるのでしょうか。IMUメーカーは、もっとセンサフュージョンを行えば、もっとパフォーマンスを向上できることに気づきました。そこで測定値を改善し、エラーを減らして、内部調整や補正に対応できる優れたデータを取得できるよう、もう1つセンサを追加しました。それが磁気センサで、この追加により、新たなセンサ情報が取得できます。磁気センサは、地球の磁場を検出し、それによって方位の測定が可能になります。この情報を加速度センサとジャイロセンサと合わせてセンサ融合させると、センサメーカーが言うように、自由度が3つ増えることになります。こうして9自由度のIMUが生まれたのです。
誤解のないよう付け加えておくと、この言葉には若干の強引さがあります。というのも物理学で定義されているのは、6自由度だからです。しかし、IMUデバイスは、センサフュージョンによって3種類の3軸センサを使用しているため、ソリューションには9つのセンサ入力データが提供されることになります。
先ほど、IMUには、10自由度を持つものもあると言いました。9自由度まで説明しましたが、 どうすれば10自由度になるのでしょうか。
答えは簡単で、もう1つセンサを追加すればいいのです。気圧センサを加えて、センサ情報を増やします。気圧センサを組み込めば、IMUメーカーが言うように、10自由度になります。
3 DoF 加速度センサ
3 DoF ジャイロセンサ
3 DoF 磁気センサ
1 DoF 気圧センサ
10 DoF
まとめ
私の子供時代のおもちゃとは違って、今日の電子機器には、ますます多くのセンサ情報が求められています。センサフュージョンは、複数のセンサとソフトウェアソリューションを統合し、車載、ICT、IoTの実現に貢献しています。この記事で、IMUがどのように複数のセンサを1つのモノリシックデバイスに統合しているのかが、おわかりいただけたと思います。子供たちを夢中にさせたあのコマのように、IMUの威力を実感するには、TDK InvenSenseの豊富な製品ラインアップをご覧ください。
著者
ポール・ゴラータ
2011年マウザー・エレクトロニクスに入社。シニアテクノロジースペシャリストとして、戦略的リーダーシップ、計画の実行、全体的な製品ライン、高度技術製品に関するマーケティング指導などを通じてマウザーの実績に貢献している。また設計技師に電気工学の最新情報やトレンドを伝えるため、ユニークかつ貴重な技術コンテンツを配信し、マウザー・エレクトロニクスの理想的な企業としての地位強化にも貢献している。
マウザー・エレクトロニクス以前は、Hughes Aircraft Company、Melles Griot、Piper Jaffray、Balzers Optics、JDSU、及びArrow Electronicsに勤務。製造、マーケティング、及び営業関連に従事した。DeVry Institute of Technology(イリノイ州シカゴ)にてBSEET(電気工学技術の理学士号)、Pepperdine University(カリフォルニア州マリブ)にてMBA(経営学修士号)、Southwestern Baptist Theological Seminary(テキサス州フォートワース)にてMDiv w/BL(神学及び聖書文学修士号)及びPhD(博士号)を取得。
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