5Gリリース16が非常に注目を集めています。本書をお読みになっている方がエンジニアや技術者、熱心なIoTユーザーであるか、あるいはごく一般のスマホユーザーであったとしても、もっと速く、遅れない、IoTの処理能力アップ、大容量通信時の安定した回線とさらなる高性能を求めていることでしょう。そんなあなたは、リリース16にワクワクして仕方がないはず。
リリース16は、企業・産業向けの新機能・高性能のテクノロジーを実用化にもたらします。効率性、サービス、自動化性能が劇的に向上するため、IoT、 V2X通信、医療などの分野は、新たな次元へと飛躍するでしょう。
5G NRリリース16の6つの主な機能強化
- 5GNRベースのセルラーV2X(C-V2X)サイドリンク:リリース16 NR C-V2X直接通信モード(サイドリンク)仕様では、セルラーネットワークを使用せずに自動運転を実現する高度なユースケースをサポートする。
- 5GNRの機能強化:
- MU-MIMO(Multi-User Multiple-Input Multiple-Output)テクノロジー:より多くのアンテナを用いて受信機ダイバーシティとMIMOから大きな利得が得られる。
- 複数送受信ポイント (Multi TRP):マクロセル、スモールセル、ピコセル、フェムトセル、リモートラジオヘッド、中継ノードなど
- リンク信頼性の向上
- 免許不要帯域での5G:リリース16により、5Gセルラーサービスに初めて免許不要な周波数帯が開放される。
- 5G用タイムセンシティブネットワーク(TSN):有線接続ができない産業現場の高い要求を満たす無線接続に対応する。
- 無線アクセスバックホール統合伝送(IAB):今回のリリースでは、5Gの一部をバックホールに使用するIAB規格にも対応予定。IABでは、スモールセル全数をファイバーベースにする必要はなく、無線接続を使用することが可能になる。
- 5GNRにおけるIoT/NB-IoTの5G:リリース16では、5Gコアネットワーク上でNB-IoTなどの低消費電力モバイルIoTプロトコルの展開・管理が可能になる。
それでは、リリース16の最も重要な機能強化について詳しく見ていきたいと思います。
C-V2X
リリース16では、端末間直接通信を可能にするサイドリンク通信が強化されています。セルラーネットワークに依存せずに半自動運転、さらには自動運転の実現が可能になります。
特に公共安全においてサイドリンクは重要です。多くのV2Xサービスは、近接性があればよく、ネットワークインフラが整備されていない地域でも動作を続けることができるからです。(図1)
図1:5G NRリリース16により公共安全が強化されます。(画像:Qualcomm)
サイドリンクを使えば、車両はより簡単に隊列走行が可能になり、衝突回避や協調的車線変更のような重要な安全機能が実用化します。C-V2Xによって、自動車や電気自動車の安全性を大幅に高める本格的な実装が可能になり、最終的には自動運転車による安全な路上走行が実現するでしょう。
複数送受信ポイント
リリース16において本格的な5G普及につながるもう一つの重要な機能強化はMulti-TRPです。これは、マクロセル、スモールセル、ピコセル、フェムトセル、リモートラジオヘッド(RRH)、中継ノードで構成されます。この多くの送受信ポイントにより、信頼性、カバレッジ、容量性能が大幅に向上します。
5Gのモバイルデータトラフィックは、特にMulti-TRPによるネットワークセルのエッジにあるワイヤレス端末によって大幅に増加しますが、信号の送受信が強化されるため、スループットは向上するでしょう。
免許不要帯域での5G
現在の5G向け免許帯域には 世界で40以上の周波数帯があります。
免許不要帯域として、5GHz帯と6GHz帯(米国5925-7125MHz帯、欧州5925-6425MHz)が開放されることにより、世界でさらに多くの周波数が利用できるようになります。
1,200MHzの免許不要帯域が追加され、免許不要周波数帯が膨大に増えたため、輸送コンテナ港でのスマートな物流、遠隔地のコネクテッドマイニングの生産性向上、倉庫管理のスマート化など、産業用IoT(IIoT)において、スタンドアロン型 NR-U(New Radio Unlicensed)を活用する新しい領域や市場が生まれることでしょう。アンカー型NR-Uは、密集した都市部のホットスポットやモール、キャンパスに高速通信をもたらすことが期待できます。(図2)
図2:ユーザープレーン(UP)ルートは、ネットワーク設計に依存するのに対して、NR-U展開シナリオには、アンカー型NR-U用に示されたコントロールプレーン(CP)ルートが含まれています。(図:Qualcomm)
NR-Uは、既存のIEEE 802.11/Wi-Fiシステムとの共存を可能にします。
また6GHz帯は、Wi-Fiと5Gにさらに帯域幅をもたらします。アンカー型NR-Uを使って免許帯域や共用帯域をアンカーとして組み合わせて、LAA(ライセンス補助アクセス)、またはCBRS(Citizens Broadband Radio Service:市民ブロードバンド無線サービス)などの共用帯域が利用できるようになれば、導入が加速し、5Gの高速通信でユーザー体験は向上するでしょう。スタンドアロン型NR-Uを使用することで、免許不要帯を利用した5Gプライベートネットワークの導入が可能になります。
5G用タイムセンシティブネットワーク(TSN)
TSNとは、IEEE 802.1ワーキンググループのタイムセンシティブネットワーク(TSN)タスクグループによって策定されたネットワーク規格です。 TSNは、業務プロセスと分析を管理するITネットワークと、製造現場で稼働する機器を管理する産業用ネットワークとの間の重要な橋渡しとなります。
TSN規格は、タイムクリティカルなデータに対し、時間の同期性の保証されたネットワークを提供し、センサからのデータを受信する制御システムやコンピュータビジョンなどのアプリケーションに最適です。
Industry 4.0とIIoTは、自動車、石油・ガス、公共事業、食品・飲料、医薬品などの幅広い産業垂直市場にわたって普及しつつあります。
リリース16によって、コンピュータビジョンやセンサからのデータを受信する制御システムの保証されたリアルタイム性は向上します。5Gが産業用制御システムやデータトラフィックに対応できるのは、低遅延と高い信頼性の決定性機能によるところが大きいと言えます。
「TSN over 5G」は、5G上でTSNサービスをサポートし、センサやアクチュエータなどの産業用デバイスと産業用コントローラとの間の効率的な通信をワイヤレスで実現します。Industry 4.0ソリューションには、工場のシステムを改善する上でこのサービスが必要です。
このTSN over 5Gは、5G システム上でのTSN同期とTSNイーサネットの運用、5G超高信頼低遅延(URLLC)通信、5Gエンドツーエンド QoS(サービス品質)管理、さらにはインテリジェントなスケジューラ・アルゴリズムによって実現されます。
まとめ
5Gサービスがより高度なソリューションによって進化を続ける中、さらに劇的な技術的進歩が起きようとしています。リリース16は、企業・産業向けの新機能・高性能を実現します。効率性、サービス、自動化性能が劇的に向上するため、IoT、 V2X通信、医療などの分野は、新たな次元へと飛躍するでしょう。
著者
Steve Taranovich:
NASAとグラマン社のエンジニア、宇宙飛行士、技術者の証言に基づきアポロ計画の実話を描いたノンフィクション『 Guardians of the Right stuff』の著者。2012年から2019年まで、ニュースサイトEETimeおよびPlanet Analogの編集長、EDN Analog and Power Management Design Centersのシニアテクニカルエディターを歴任。40年におよぶ電子回路設計・機器設計経験と9年におよぶエレクトロニクス業界での技術記事執筆・編集実績を持つ。専門領域は、アナログエレクトロニクス、宇宙エレクトロニクス、オーディオ、RF・通信、電源管理、電気工学、集積回路(IC)など。また専門分野においてメディア、コミュニケーションで高い実績を持つ。1972年、New York Universityで電子工学学士(BEEE)を取得、1989年、Polytech Universityで電気工学修士(MSEE)を取得。1972年から1988年まで、オーディオ(8年間)とマイクロ波(8年間)の分野で回路設計者として活躍。
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