医療ヘルスケアの未来
「あのう、先生、こうすると痛むんですが」。「その症状に関するアプリは、もうダウンロードしてみましたか」。医師と患者との間でこんな会話が、不整脈、うつ病、パーキンソン病など、多くの病気について交わされるようになるのは、もうそんなに遠い先の話ではないかもしれません。これからの医療では、アプリケーションがウェアラブルや飲み込み型センサなどと連携して、医師や医療専門家に患者の病状を観察する上で欠かせない健康データを提供するようになります。この記事では、「デジタル治療(Digital Therapeutics:DTx)」と呼ばれる、比較的まだ新しい医療分野に目を向け、ソフトウェアとウェアラブルが、今後どのように私たちの医療に活用されていくのかについて見ていきたいと思います。
デジタルヘルステクノロジーの展望
医療テクノロジーの未来は可能性にあふれていますが、その中心は、患者をつなぐコネクテッドヘルスケアにあると言えます。
解析計算、データストレージ、人工知能(AI)の技術的進歩により、高度な解析はいちだんと実用的になってきました。ウェアラブル医療機器、スマートフォン、スマートウォッチなどのパーソナルデバイスによって、患者は医療提供者とデジタル情報をやり取りすることができます。特に注目すべきなのは、研究データによれば、治療や医療行為でのデジタル活用は人間の幸福感の向上につながるという実証データが増えているということです。また、デジタル治療は、スピード、利便性、人との非接触性という今日の要請に応えるものでもあります(画像1)。デジタル技術は、今後数年のうちに医療システムを大きく変えることになるでしょう。
デジタル治療は、デジタルヘルス技術の中の一分野にすぎません。このデジタルの領域では、デジタル治療以外にも、次のような多岐にわたる分野でデジタルヘルスが急速に拡大しています。
- デバイス、センサ、ウェアラブル:ウェアラブル機器、ワイヤレス機器、生体センサ、診断機器(診断薬)
- 医療情報技術(HIT):電子カルテシステム、電子処方・オーダーエントリアプリケーション、コンシューマーヘルス・情報技術(IT)アプリケーション
- モバイルヘルス(mHealth):健康管理、フィットネストラッカー、栄養アプリケーション、個人の健康情報、服薬アドヒアランスアプリケーション
- 個別化医療:患者報告アウトカム、予測分析、臨床意思決定支援
- 遠隔医療:仮想訪問による遠隔医療、遠隔患者モニタリング、遠距離医療プログラム
画像1:より高度な医療を自宅で受けることで生活を向上させることが、デジタルエレクトロニクスソリューションによって可能になります。(画像: metamorworks/Shutterstock.com)
デジタルヘルス・エコシステムのこのようなさまざまなソリューションは、互いに連携し、患者の病状の改善を支援します。大規模な企業レベルのシステムとサポートは、各種医療システム、病院、企業のためのプラットフォームになります。臨床サービスや臨床サポートはHITや遠隔医療を利用すれば、医療ケアとワークフローを改善することができます。デバイス、センサ、ウェアラブル、モバイルヘルス(mHealth)などの患者向け健康管理やサポートは、健康データの取得、蓄積、活用に役立ちます。患者向け診断・モニタリングソリューションは、医療診断、診断のガイド、患者のモニタリングに採用されます。
デジタル治療の定義
デジタル治療(DTx)とは、医学的エビデンスに基づいて、臨床的に評価されたソフトウェアを用いて患者に医療行為を行い、精神・身体の疾患や障害を予防、管理、治療することです。患者のケアや治療に最大限の効果をもたらすために、デジタル治療は単独で行われることも、投薬、機器療法、その他の療法と組み合わせて行われることもあります。デジタル治療(DTx)製品には、デザイン、臨床評価、ユーザビリティ、およびデータセキュリティにおける先進技術のベストプラクティスが盛り込まれます。また、製品のリスク、有効性、使用目的に関しては、規制機関による審査、承認または認定を受けます。このようにデジタル治療は、高品質で安全、かつ効果的なデータによる支援を通して、さまざま疾患に対処できるインテリジェントでアクセスしやすいツールを患者、医師、医療費負担者に提供します。
デジタル治療(DTx)製品の基本原則
デジタル治療製品は、以下の基本原則に基づいて設計・開発されることが求められています。
- 医学的障害や疾患の予防、管理、治療を行う
- ソフトウェアによる医療行為を行う
- 設計、製造、品質のベストプラクティスを取り入れる
- 製品開発やユーザビリティのプロセスにエンドユーザーを関与させる
- 患者のプライバシーとセキュリティを保護する
- 製品の展開、管理、保守に関するベストプラクティスを適用する
- 臨床的に意味のある結果を含む試験結果を査読付き学術誌に掲載する
- リスク、有効性、使用目的に関する製品の主張を裏付けるために必要とされる、規制機関による審査、承認または認定を受ける
- 臨床評価と規制状況に応じた適切な主張を行う
- 現実世界のエビデンスと製品性能データの収集、分析、適用を行う
デジタル治療製品の価値
デジタル治療製品は、エビデンスに基づいて臨床的に評価された技術を活用し、次のような利点が期待できます。
- 臨床効果と医療経済効果を最大化する
- 十分な医療を受けていない人たちに高品質な治療法を提供する
- 拡張性が高く、患者が所有するデバイスで簡単にアクセスできる
- 自宅での利便性とプライバシーを提供する
- 患者によるヘルスケアへの理解、管理、関与のあり方を大きく変える
- 医師の患者ケア能力の向上
- 医療インフラの整備が異なる環境下で医療チームをサポート
- 医療費全般の削減
まとめ
デジタル治療は、医学的エビデンスに基づいて患者に医療行為を行い、疾患や障害を予防、管理、治療します。ソフトウェア、医療用ウェアラブル、スマートフォン、その他の電子医療機器が連携し合い、人類の疾病との闘い、その治療に貢献するのです。医療専門家は、患者の健康状態を改善する方法をこれからも追求し続けるでしょう。そして近い将来、患者自らが医療提供者と協力し、「汝自身を癒やせ」を実践できる時代が到来するはずです。
ポール・ゴラータ
2011年マウザー・エレクトロニクスに入社。シニアテクノロジースペシャリストとして、戦略的リーダーシップ、計画の実行、全体的な製品ライン、高度技術製品に関するマーケティング指導などを通じてマウザーの実績に貢献している。また設計技師に電気工学の最新情報やトレンドを伝えるため、ユニークかつ貴重な技術コンテンツを配信し、マウザー・エレクトロニクスの理想的な企業としての地位強化にも貢献している。
マウザー・エレクトロニクス以前は、Hughes Aircraft Company、Melles Griot、Piper Jaffray、Balzers Optics、JDSU、及びArrow Electronicsに勤務。製造、マーケティング、及び営業関連に従事した。DeVry Institute of Technology(イリノイ州シカゴ)にてBSEET(電気工学技術の理学士号)、Pepperdine University(カリフォルニア州マリブ)にてMBA(経営学修士号)、Southwestern Baptist Theological Seminary(テキサス州フォートワース)にてMDiv w/BL(神学及び聖書文学修士号)及びPhD(博士号)を取得。