2022年3月4日金曜日

デジタル治療でヘルスケアの未来が変わる

 


医療ヘルスケアの未来

 

「あのう、先生、こうすると痛むんですが」。「その症状に関するアプリは、もうダウンロードしてみましたか」。医師と患者との間でんな会話が、不整脈、うつ病、パーキンソン病など、多くの病気について交わされるようになるのは、もうそんなに遠い先の話ではないかもしれません。これからの医療ではアプリケーションがウェアラブルや飲み込み型センサなどと連携して、医師や医療専門家患者の病状を観察する上で欠かせない健康データを提供するようになります。この記事では、「デジタル治療Digital TherapeuticsDTx)」と呼ばれる、比較的まだ新しい医療分野に目を向け、ソフトウェアとウェアラブルが今後どのように私たちの医療に活用されていくのかについて見ていきたいと思います。

 

デジタルヘルステクノロジーの展望

 

医療テクノロジーの未来は可能性にあふれていますが、その中心は、患者をつなぐコネクテッドヘルスケアにあると言えます。

解析計算、データストレージ、人工知能(AI)の技術的進歩により、高度な解析はいちだんと実用的になってきました。ウェアラブル医療機器、スマートフォン、スマートウォッチなどのパーソナルデバイスによって、患者は医療提供者とデジタル情報をやり取りすることができます。特に注目すべきなのは、研究データによれば、治療や医療行為でのデジタル活用は人間の幸福感の向上につながるという実証データが増えているということです。また、デジタル治療は、スピード、利便性、人との非接触性という今日の要請に応えるものでもあります(画像1)。デジタル技術は、今後数年のうちに医療システムを大きく変えることになるでしょう。

 

デジタル治療は、デジタルヘルス技術の中の一分野にすぎません。このデジタルの領域では、デジタル治療以外にも、次のような多岐にわたる分野でデジタルヘルスが急速に拡大しています。

  • デバイス、センサ、ウェアラブル:ウェアラブル機器、ワイヤレス機器、生体センサ、診断機器(診断薬)
  • 医療情報技術(HIT):電子カルテシステム、電子処方・オーダーエントリアプリケーション、コンシューマーヘルス・情報技術(IT)アプリケーション
  • モバイルヘルス(mHealth):健康管理、フィットネストラッカー、栄養アプリケーション、個人の健康情報、服薬アドヒアランスアプリケーション
  • 個別化医療:患者報告アウトカム、予測分析、臨床意思決定支援
  • 遠隔医療:仮想訪問による遠隔医療、遠隔患者モニタリング、遠距離医療プログラム


画像1より高度な医療を自宅で受けることで生活を向上させることが、デジタルエレクトロニクスソリューションによって可能になります。(画像: metamorworks/Shutterstock.com

デジタルヘルス・エコシステムのこのようなさまざまなソリューションは、互いに連携し、患者の病状の改善を支援します。大規模な企業レベルのシステムとサポートは、各種医療システム、病院、企業のためのプラットフォームになります。臨床サービスや臨床サポートはHITや遠隔医療を利用すれば、医療ケアとワークフローを改善することができます。デバイス、センサ、ウェアラブル、モバイルヘルス(mHealth)などの患者向け健康管理やサポートは、健康データの取得、蓄積、活用に役立ちます。患者向け診断・モニタリングソリューションは、医療診断、診断のガイド、患者のモニタリングに採用されます。

 

デジタル治療の定義

デジタル治療(DTx)とは、医学的エビデンスに基づいて、臨床的に評価されたソフトウェアを用いて患者に医療行為を行い、精神・身体の疾患や障害を予防、管理、治療することです。患者のケアや治療に最大限の効果をもたらすために、デジタル治療は単独で行われることも、投薬、機器療法、その他の療法と組み合わせて行われることもあります。デジタル治療(DTx)製品には、デザイン、臨床評価、ユーザビリティ、およびデータセキュリティにおける先進技術のベストプラクティスが盛り込まれます。また、製品のリスク、有効性、使用目的に関しては、規制機関による審査、承認または認定を受けます。このようにデジタル治療は、高品質で安全、かつ効果的なデータによる支援を通して、さまざま疾患に対処できるインテリジェントでアクセスしやすいツールを患者、医師、医療費負担者に提供します。

 

デジタル治療(DTx)製品の基本原則


デジタル治療製品は、以下の基本原則に基づいて設計・開発されることが求められています。

  • 医学的障害や疾患の予防、管理、治療を行う
  • ソフトウェアによる医療行為を行う
  • 設計、製造、品質のベストプラクティスを取り入れる
  • 製品開発やユーザビリティのプロセスにエンドユーザーを関与させる
  • 患者のプライバシーとセキュリティを保護する
  • 製品の展開、管理、保守に関するベストプラクティスを適用する
  • 臨床的に意味のある結果を含む試験結果を査読付き学術誌に掲載する
  • リスク、有効性、使用目的に関する製品の主張を裏付けるために必要とされる規制機関による審査、承認または認定を受ける
  • 臨床評価と規制状況に応じた適切な主張を行う
  • 現実世界のエビデンスと製品性能データの収集、分析、適用を行う

 

デジタル治療製品の価値


デジタル治療製品は、エビデンスに基づいて臨床的に評価された技術を活用し、次のような利点期待できます

  • 臨床効果と医療経済効果を最大化する
  • 十分な医療を受けていない人たちに高品質な治療法を提供する
  • 拡張性が高く、患者が所有するデバイスで簡単にアクセスできる
  • 自宅での利便性とプライバシーを提供する
  • 患者によるヘルスケアへの理解、管理、関与のあり方を大きく変える
  • 医師の患者ケア能力向上
  • 医療インフラの整備が異なる環境下で医療チームをサポート
  • 医療費全般削減

 

 

まとめ

デジタル治療は、医学的エビデンスに基づいて患者に医療行為を行い、疾患や障害を予防、管理、治療します。ソフトウェア、医療用ウェアラブル、スマートフォン、その他の電子医療機器が連携し合い、人類の疾病との闘い、その治療に貢献するのです。医療専門家は、患者の健康状態を改善する方法をこれからも追求し続けるでしょう。そして近い将来、患者自らが医療提供者と協力し、「汝自身を癒やせ」を実践できる時代が到来するはずです。

 


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ポール・ゴラータ

2011年マウザー・エレクトロニクスに入社。シニアテクノロジースペシャリストとして、戦略的リーダーシップ、計画の実行、全体的な製品ライン、高度技術製品に関するマーケティング指導などを通じてマウザーの実績に貢献している。また設計技師に電気工学の最新情報やトレンドを伝えるため、ユニークかつ貴重な技術コンテンツを配信し、マウザー・エレクトロニクスの理想的な企業としての地位強化にも貢献している。

マウザー・エレクトロニクス以前は、Hughes Aircraft CompanyMelles GriotPiper JaffrayBalzers OpticsJDSU、及びArrow Electronicsに勤務。製造、マーケティング、及び営業関連に従事した。DeVry Institute of Technology(イリノイ州シカゴ)にてBSEET(電気工学技術の理学士号)、Pepperdine University(カリフォルニア州マリブ)にてMBA(経営学修士号)、Southwestern Baptist Theological Seminary(テキサス州フォートワース)にてMDiv w/BL(神学及び聖書文学修士号)及びPhD(博士号)を取得。

 

2022年2月24日木曜日

【ニューテック・チューズデー】ケーブルはもうやめ!充電ならやっぱりワイヤレス

 

 

ニューテック・チューズデー

技術ジャーナリストのトミー・カミングスが毎週、設計エンジニアにとって興味ある「旬な」トピックを取り上げます。

 

世の中、何ごとも縛られるというのは愉快なことではありません。特に充電ケーブルには。

スマートフォンやデバイスをケーブルなしで充電できれば、どんなに楽なことでしょう。電気自動車やウェアラブルの普及が進む今日、誰もが充電ケーブルの束縛から解放されたいと願っているはずです。

ワイヤレス充電は、ケーブルやコードを使わずに電源から機器にエネルギーを伝送する技術ですその歴史は長く、1891年、発明家のニコラ・テスラが行ったワイヤレス給電の実証実験に遡ります。それから130年以上を経た今もなお、この技術は進化を続け開発者たちは、成長著しいワイヤレス充電市場に向けてソリューションを次々と打ち出しています。

 

ここで、ワイヤレス充電の利点について整理してみましょう。まず、ワイヤレス充電は、物理的なコネクタやケーブルが不要でありながら、信頼性が高く、便利で、安全性が実証された技術です。第二に、充電器のコイルと充電対象機器のコイルが近接し、互換性があり密結合されていれば、小型機器から産業用まで、機器の種類や大きさに関係なく、誘導電力伝送を連続して行うことができます。

また、ワイヤレス充電には難点もあります。磁界は空気中で急速に減衰するので、現在のスマートフォンのワイヤレス充電は、距離に制限があります。そこで磁気素材、コイル、チップ、保護回路をスマートフォンに搭載しようとすると、コストが高くなります。

今週の「ニューテック・チューズデー」は、Signal Transformer社、PANJIT Semiconductors社、STMicroelectronics社から、電力伝送ソリューションを実現する注目の新製品をご紹介します。



コイル、MOSFET、パワーIC

スマートフォンやタブレットの充電パッドは、今ではすっかり身近なアイテムになりました。充電パッドに内蔵されているワイヤレス充電コイルが、振動磁界を発生させ、その誘導でエネルギー源からデバイスへ信号、データ、電力を伝送します。 Signal Transformer/Belのワイヤレス充電コイルは、単巻、二巻、多巻の構成があり、送信側と受信側の間を橋渡しをします。この薄型のコイルは、スマートフォン、タブレット、ゲームコントローラ、ウェアラブル、歯ブラシ、ロボット掃除機、ドローン、さらにはスマートカー向け充電アプリケーションなどに最適です。もちろん、誘導結合により、導電接続や従来の配線は不要になります。コイルは固定位置で動かず、振動や腐食に強く、信頼性と長期寿命を実現します。

 

PANJIのワイヤレス充電トランスミッタ用パワーMOSFETは、充電ソースとバッテリ受電機器の間の電磁誘導に最適化されており、 ワイヤレス充電器の適切で効率的な動作を実現します。薄型パッケージは、省スペース化に貢献し、低スイッチング損失と高スイッチング周波数を実現します。このMOSFETは、低性能指数(FOM)を特徴とし、表面実装用の露出サーマルパッドを備えています。代表的な用途として、ワイヤレス充電パッドやケースが挙げられます。

 

また、ワイヤレスパワーソリューションには、パワーレシーバも必要ですSTMicroelectronicsSTWLC68 Qi準拠ワイヤレスパワーレシーバは、最大5Wの出力電力を管理できます。STWLC68は、受信コイルの交流電圧を出力で安定した直流電圧に整流します。32 ビットArm Cortex マイクロコントローラ(64MHz)は、電磁誘導性通信プロトコルとBPPBase Power Profile)についてQi 1.2.4 規格に準拠し、スマートフォン、パワーバンク、ウェアラブルなどの携帯機器に最適です。内蔵の低損失同期整流器と低ドロップアウト(LDO)リニアレギュレータにより優れた効率を発揮します。デジタルコアによって管理されるため、幅広い出力負荷状態でシステム全体の消費電力を最小化します。なお、Qi(チー)とは、標準化団体WPC(ワイヤレスパワーコンソーシアム)が策定したワイヤレス給電の国際標準規格です。

 

今週のまとめ

ワイヤレス充電技術は、急速に進化しており、今後も市場の大きな拡大が期待されています。デバイスの利便性が追求される限り、ワイヤレス充電の利便性も同じように求められるでしょう。やはり、この時代、何ごとも縛られたくない、誰もがそう思っているはずです。



著者

トニー・カミングス

米国テキサス州在住のフリーランスライター兼編集者。ジャーナリスト歴は40年以上におよび、 現在、Texas Monthly誌、Oklahoma Todayにて執筆中。過去Dallas Morning News紙、Fort Worth Star-Telegram紙、San Francisco Chronicle紙などでの執筆経験を持つ。シリコンバレーのドットコム・ブームを取材し、様々なメディアでデジタルコンテンツやオーディエンスエンゲージメント編集に携わる。2018年から2021年までマウザー・エレクトロニクスにてテクニカルコンテンツプロダクトコンテンツ・スペシャリストとして勤務。

 

 

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2022年1月27日木曜日

【ニューテック・チューズデー】ソーラーカー開発向け代替エネルギーソリューション2製品を紹介

 

 

ニューテック・チューズデー

技術ジャーナリストのトミー・カミングスが毎週、設計エンジニアにとって興味ある「旬な」トピックを取り上げます。

 

エンジン車と同様、代替エネルギー車の動力源は、いつも安全性と信頼性が最大化するよう管理されている必要があります。

ソーラーカーも同じです。

ソーラーカー(SEV:ソーラー電気自動車)には、電気自動車(EV)やハイブリッド車(HEV)などの他の電気自動車と同じようなバッテリ管理システム(BMS)とスイッチングシステムが必要です。それでも今、ソーラーカーが話題を集めているのは、EVHEVが今後の自動車の主流になると言われながらも、バッテリー充電や走行距離などの面でドライバーの不安が依然として解消されていないからです。

その解決策として自動車開発者たちが着目したのが、太陽光発電です。太陽光を動力とするソーラーカーなら、同じバッテリで走行距離を伸ばすことができるはずです。

では、ソーラーカーの開発や太陽光発電アプリケーションの電力管理は、現在、どのような状況にあるのでしょうか。

ソーラーカーの開発は、かなり前から行われていました。米国テキサス州フォートワースで開催される「ソーラーカー・チャレンジ」をはじめとする、さまざまなソーラーカーレースの模樣を映像などで目にしたことのある方も多いかもしれません。ただし、製品化については、新興自動車メーカーや、テスラ、トヨタといった大手EVメーカーなどの数社がソーラーカーやそのハイブリッドモデルの開発を行ってはいますが、いずれもまだ市販にいたっていません。アプテラ社は、最近、開発中のソーラーカーの3度目にして最後のアルファ版を発表し、2022年に生産、納車を予定しています。同じく2022年に生産開始を予定しているテスラ社のCybertruckは、オプションでソーラーパネルを追加することができるので、走行中、駐車中を問わず、太陽光の充電が可能になります。アプテラもCybertruckも多くの太陽エネルギーを集めることができるよう、かなり型破りな車体デザインを採用しています。また、韓国の現代自動車(Hyundai)は、2020年、 ソーラールーフシステムを搭載した「ソナタ」のハイブリッドモデルを発表しました。このモデルはソーラーパネルとコントローラを搭載しており、車は発電して、バッテリに電気を貯めておくことができます。

現在のソーラーカーのデザインは、さながら車輪の付いたソーラーパネルといったところです。事実、太陽電池をパネルとして搭載したEV車なので、わざわざ停車しなくても充電が可能になります。開発者たちは今も、ソーラパネルを車のルーフやボンネットへ搭載し、パワーマネージメントシステムに効率よく接続するプロジェクトに取り組んでいます。この電力は調整され、モニタリングされる必要があります。

今週の「ニューテック・チューズデー」では、リテルヒューズ社とアナログ・デバイセズ社の自動車の電動化製品に注目したいと思います。

 



太陽光がある場所なら

設計エンジニアは、リテルヒューズ社のDCN大電流・高電圧DCコンタクタリレーを使用することで、高電圧リレースイッチングをさまざまな大電流・高電圧アプリケーションに組み込むことができます。この製品の代表的なアプリケーションには、電気自動車、EVHEV用の充電ステーション、電動フォークリフトなどがあります。高電圧リレーは、ソーラーパネルからの出力の切り替えを行い、太陽光発電の調整にも使用されます。リテルヒューズのリレーDCNシリーズは、30Aから500Aの連続電流と最大1800Vの電圧定格に対応します。また、取付方向には制約がなく、サイドマウント、ボトムマウントが可能です。

 

アナログ・デバイセズ社のLTC2949電流およびスタック電圧モニタICは、電気自動車やハイブリッド車、その他の絶縁型電流検出アプリケーションの電流、電圧、温度、充電、および電力を計測し、信頼性の高いバッテリ管理システムを実現します。主なパラメータを計測することで、バッテリスタック全体のリアルタイムの充電状態(SOC)と健全性(SOH)の計算に不可欠な項目を得ることができます。電流および電力の連続積分により、バッテリパックで供給または受信する充電と電力量を損失なく追跡できます。LTC2949は、複数のスタック監視のトポロジーと構成に容易に対応します。1%の電力量および充電精度を備え、ISO26262準拠システム用に設計されており、オートモーティブ・アプリケーション向けのAEC-Q100認定済みまさに次世代EV用バッテリ管理システムに欠かせない特長を備えたデバイスです。

今週のまとめ

ソーラーカーには、他の代替エネルギー関連プロジェクトと同様、バッテリ管理システム(BMS)とリレースイッチング機能が必須です。BMSは充電式バッテリー駆動システムには不可欠ですが、部品の設計と選定は慎重に検討することが大切です。ソーラーカーが開発段階から進歩し、市販されるようになれば、代替エネルギーソリューション向けの電動化製品がさらに登場してくることでしょう。

 

 

著者

トニー・カミングス

米国テキサス州在住のフリーランスライター兼編集者。ジャーナリスト歴は40年以上におよび、 現在、Texas Monthly誌、Oklahoma Todayにて執筆中。過去Dallas Morning News紙、Fort Worth Star-Telegram紙、San Francisco Chronicle紙などでの執筆経験を持つ。シリコンバレーのドットコム・ブームを取材し、様々なメディアでデジタルコンテンツやオーディエンスエンゲージメント編集に携わる。2018年から2021年までマウザー・エレクトロニクスにてテクニカルコンテンツプロダクトコンテンツ・スペシャリストとして勤務。

 

 

 

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デジタル治療でヘルスケアの未来が変わる

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